ク
『クリトン』
古代
法への服従と正義を問うプラトンの対話篇
哲学
この著作について
プラトン初期の短い対話篇で、死刑判決を受けたソクラテスに脱獄を勧める旧友クリトンとの夜明け前の対話を描いた作品。
【内容】
処刑を目前に控えた牢獄に、朝早く訪ねてきたクリトンは、友人たちが用意した脱獄計画を打ち明ける。金を工面してテッサリアへ逃がそうとし、残される息子たちの養育も考えよと訴える旧友に対し、ソクラテスは世論や生命そのものより「よく生きること」が重要だと答える。続いて彼は仮想の「国法(ノモイ)」を人格化して登場させ、長年アテナイに暮らし法の恩恵を受けてきた市民が、判決が気に入らないからと法を破ることの不正を説く。合意された法と個人の良心の関係、市民の黙示の同意の意味が凝縮された問答のうちに、ソクラテスは脱獄を退け、判決に従う道を選ぶ。
【影響と意義】
わずか二十ページほどの作品ながら、法への服従と個人の良心、市民の契約、正しい生の優先といった政治哲学の根本問題を、凝縮された形で提示している。のちにホッブズ、ロック、ルソーが展開する社会契約説に近い論証を早くも含んでいる。ヒュームは、市民が暗黙のうちに忠誠を約束するという考えを示す古代の文献として、この作品に触れている。現代でも、市民的不服従や法に従う義務をめぐる議論のなかで、無条件の服従を説く書なのかどうかが争われている。
【なぜ今読むか】
「法に従うべきか、良心に従うべきか」というジレンマは、組織に属する現代人にも形を変えて訪れる。短く読めて、自分の立ち位置を点検する力を貸してくれる、二千四百年前の小篇である。
著者
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