『判断力批判』
はんだんりょく ひはん
カント·近代
カントによる第三批判書
この著作について
カント晩年の大著であり、認識と道徳の二つの領域を結び直すために美と自然の目的を主題に据えた、三大批判の完結篇。
【内容】
前半の美的判断力批判では、「美しい」という言葉の不思議な構造を分析する。それは単なる私的な好みでもなく、客観的な知識でもなく、利害関心を離れた普遍的同意を要求する判断だと捉えられる。ここから趣味判断の四契機、崇高の分析、天才論が展開される。後半の目的論的判断力批判では、自然を機械的に記述するだけでは説明しきれない「目的にかなっているように見える」秩序を、認識のための統制的原理として位置づける。最終部で文化・道徳・神学の問題が総合的に扱われる。
【影響と意義】
美学を独立した哲学分野として成立させ、シラー・シェリング・ヘーゲルらドイツ観念論やロマン主義美学の出発点となった。二十世紀にはアーレントが政治的判断力のモデルとして再読し、現代の芸術論・環境哲学でも重要な参照点であり続ける。
【なぜ今読むか】
アルゴリズムに好みを推薦される時代に、「美しいと感じる」という経験がどれほど普遍と個の交差する現象かを考え直せる。自分の感性を言語化する手がかりが多く詰まった書物である。
さらに深く
【内容のあらまし】
本書は二部構成で、序論では認識能力(悟性・理性・判断力)の三分法と、判断力の二類型(規定的・反省的)が示される。第一部「美的判断力批判」は、趣味判断(「これは美しい」という判断)を分析する。四つの契機(無関心・概念なき普遍・目的なき合目的性・必然性)が趣味判断の特殊性を示し、続いて崇高の分析(数学的崇高・力学的崇高)が論じられる。崇高とは、想像力では捉えきれない巨大さ・力強さに直面したとき、理性が自分の理念の無限性を間接的に発見する経験である。
演繹論の章で、趣味判断がいかに普遍的同意を要求しうるかが論証される。鍵になるのが「共通感覚(センスス・コムニス)」の概念である。趣味判断は概念ではなく、判断主体が自分のうちに想定する他者と共有しうる感受性に基づく。続いて天才論で、芸術における規則を超えた創造性が扱われる。天才とは自然が芸術に規則を与える素質であり、模倣不可能でありながら他者の創造を喚起する。
第二部「目的論的判断力批判」は、自然のなかの目的論的秩序、とくに有機体を主題とする。機械論で全体を説明しきれない「目的にかなって組織された存在」、すなわち部分が全体のために存在し全体が部分のために組織化されている存在をどう捉えるか。カントは目的論的判断力を統制的に用いる立場、すなわち自然をあたかも目的論的に組織されているかのように見ることが認識の助けになる、という慎重な立場を提示する。
最終部の「方法論」では、文化・道徳・神学の問題が総合的に扱われる。第一・第二批判で分けられた認識と道徳の二領域が、判断力を媒介として結び直される。各章末の「注記」もカントの思考の背景を覗かせる重要な部分である。
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