『一般言語学講義』
いっぱん げんごがく こうぎ
ソシュール·現代
近代言語学を創始し構造主義の基礎を築いた講義録
この著作について
ジュネーヴ大学で一般言語学を講じたフェルディナン・ド・ソシュールの死後、1916年に弟子たちが受講ノートから編纂・公刊した近代言語学の創始的テキスト。
【内容】
言語記号は、音や文字のイメージ(シニフィアン=意味するもの)と概念(シニフィエ=意味されるもの)の結合であり、両者の結びつきは社会的な約束にすぎず恣意的だ、と論じられる。言語を過去からの変化ではなく、ある時点における相互関係の体系として捉える共時的分析の重要性が強調される。社会に共有される言語体系を「ラング」、個々の発話を「パロール」と呼び分けたうえで、言語学の対象はラングにあるとされる。「意味は他の語との差異によってのみ決まる」という発想が全体を貫く。
【影響と意義】
言語を含む人間の文化全般を、要素間の差異の体系として捉え直す視点を提供した。これが構造主義の哲学的基盤となり、レヴィ=ストロース、バルト、ラカン、フーコー、デリダに至る20世紀思想に計り知れない影響を与えた。記号学(セミオティクス)の出発点でもある。
【なぜ今読むか】
「犬」という音と犬という動物のあいだに必然的な関係はない、という議論は、言語と現実の関係を根本から考え直す契機を与えてくれる。言葉に振り回されそうになったときに読み直したい古典。
さらに深く
【内容のあらまし】
編者の序文から本文に入ると、まず言語学の対象を定めることから始まる。話し言葉、書き言葉、方言、歴史的変遷、神経生理学的な発声まで、言語にまつわる現象は雑多に広がっている。ソシュールはこの混沌に整理を入れ、社会に共有された規則と語彙の体系であるラングと、その体系を個人が使用する具体的な発話であるパロールを区別する。言語学の中心対象はラングのほうである。
続いて記号の本性が論じられる。記号は音のイメージであるシニフィアンと、概念であるシニフィエの結合であり、両者の結びつきには自然的な必然性がない。日本語の「いぬ」もフランス語のシアンも、同じ動物を指す音の選択は社会の慣習に拠っている。この恣意性のテーゼが、本書全体の出発点となる。
中盤で言語学の二つの軸が示される。歴史を辿る通時態と、ある時点の体系を切り取る共時態である。チェスの対局を撮影した一枚の写真のように、共時的な体系はそれだけで完結した関係の網であり、その分析が言語学の中心となる。価値の概念がここで導入される。一つの語の意味は単独で決まるのではなく、隣接する他の語との差異によって与えられる。フランス語のムートンは英語のシープと一致せず、英語ではマトンとシープが分担する領域を一語で覆っている。語の輪郭は、体系のなかで他の語にどこを譲るかによって作られている。
後半では統語的な連辞関係と、置き換え可能性に基づく連合関係という二つの結合が説明される。文のなかで語が前後に並ぶ関係と、ある位置に呼び出されうる候補の貯蔵庫の関係。この二つの軸の交差が言語の運動を生む。
最後にソシュールは、言語以外の社会的記号にもこの分析が拡張可能だと示唆し、来るべき記号学の構想を素描して閉じる。生前に体系化されなかった構想は、弟子たちのノートを通じて世に出ることになる。
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