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黒い皮膚・白い仮面

くろいひふ しろいかめん

フランツ・ファノン·現代

植民地主義の心理構造を分析したファノンの代表作

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社会思想

この著作について

カリブ海マルティニック島出身の精神科医にして思想家フランツ・ファノンが、フランス本国で精神医学を学びつつ書き上げた処女作で、植民地支配下の黒人の心理的疎外を精神分析の道具を使って分析した先駆的著作。

【内容】

本書はまず、マルティニックの黒人青年がフランス本国に到着する場面から議論を始める。言語(フランス語の正統的習得への強迫)、恋愛(白い女性を求める欲望、黒人女性の白人男性への憧れ)、身体イメージ、劣等感、転移と逆転移といった主題を通して、黒人が白人の言語・文化・美の基準を内面化した結果、自己を否定して「白い仮面」を被らざるを得なくなる構造が臨床経験と文学分析を交えて解明される。植民地という特殊な歴史的条件がいかに一人ひとりの精神に刻まれるかが、生々しい事例と理論の往復で描き出される。

【影響と意義】

本書はエドワード・サイードオリエンタリズム、ホミ・バーバの「模倣」概念、スチュアート・ホールの文化研究と並ぶポストコロニアル思想の源流となり、公民権運動、ブラック・パワー運動、反人種差別運動の知的基盤を提供した。現代の精神医学的社会学やクリティカル・レイス・スタディーズにも深く影響している。

【なぜ今読むか】

人種差別、移民二世の葛藤、グローバル化のなかで自分を他文化の基準に合わせるべきかを悩む経験は、現代でも形を変えて続いている。本書はその痛みを言葉にする力強い足場となる。

さらに深く

【内容のあらまし】

序章「黒人と言語」では、植民地で育った黒人がフランス本国に渡った瞬間に直面する言語経験が分析される。フランス語の正統的習得は単なる学習ではなく、白人世界に「人間」として認められるための通過儀礼となる。クレオール語を捨て、訛りを矯正し、本国の知識人と同じ語彙で語ることが要求される。言語の習得が同時にアイデンティティの植民地化として機能する逆説が、ここで明らかにされる。

第二章「有色女性と白人男性」、第三章「有色男性と白人女性」では、植民地状況下の恋愛関係が分析される。マイヨット・カペシアやルネ・マランの小説を素材として、白人との結婚を通して「白く」なろうとする欲望、黒人女性/男性が逆方向に投影しあう劣等感の構造が描き出される。恋愛という最も親密な領域にまで植民地支配が浸透している姿が示される。

第四章「植民地化された人びとの被支配コンプレックスについて」では、マノニの植民地心理学への批判を通じて、依存コンプレックスが植民地以前の人格構造ではなく植民地遭遇によって生み出されることが論じられる。第五章「黒人の生の経験」は本書の中心であり、街頭で「ほら、黒人だよ」と指差された瞬間に、ファノン自身の身体図式が崩壊する有名な現象学的記述が展開される。サルトル『反ユダヤ主義者とユダヤ人』との対決もここで展開される。

第六章「黒人と精神病理学」、第七章「黒人とヘーゲル」を経て、結論部では「自分自身を発明せよ」という呼びかけがなされる。過去の被害者性に閉じこもることでも、白人の普遍主義に同化することでもなく、自由な未来へ向けて自己を新たに創出することが求められる。

著者

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