1万円を2人で分けます。ただし相手に断る権利がありません。 あなたが決めた額が、そのまま2人の取り分になります。相手は、あなたが誰かを知りません。
まずは選んでみてください。
まず、選んでみる
1万円を2人で分けます。あなたが分け方を決め、相手はそれを受け取るだけです。断る権利はありません。あなたが決めた額が、そのまま2人の取り分になります。相手は、あなたが誰かを知りません。
いくら渡しますか。
正解はありません。選ぶと、その答えがどの前提に乗っているかが出ます。
拒否権を外すだけで、額が半分以下になります
相手に断る権利がある最後通牒ゲームでは、渡す側は平均で4割前後を提示しました。断られると二人とも受け取れません。
独裁者ゲームでは、2割程度に落ちます。 まったく渡さない人も珍しくありません。
変わったのは一点だけです。相手が断れなくなった。 それだけで、同じ人間が出す額が半分以下になります。
この差が意味することははっきりしています。最後通牒ゲームで出ていた4割は、公平さの表れというより、断られないための計算を多く含んでいた。
4つの答えは、それぞれ別の哲学に立っている
自分の得で決める。0円。断られる心配がない以上、渡す理由がない。筋は通っています。 相手は文句を言えず、二度と会わず、誰が決めたかも分かりません。
等しく分ける。5000円。断れるかどうかで分け方を変えるのは、筋が通らない。相手の力に応じて態度を変えないという立場で、これが取れるなら公平さは本物です。
弱い側に寄せる。5000円より多く渡す。断れない側にいる不利のぶんを足す。その人が気の毒だからではなく、断れない側に置かれていること自体を上乗せの理由とみなすやり方です。ロールズが、一つ一つのやり取りより先に、人がどの位置に置かれるかの仕組みを問題にしたのと同じ向きになります。
感じたことで決める。2000円。断られる心配はないが、まったく渡さないのは気が引ける。筋でも損得でもなく、据わりの悪さで決めている答えです。誰も見ていないのに、まるごと取るのは気持ちが悪い。実験で出る2割という額の多くは、この答えでしょう。アダム・スミスは、人の胸のうちに公平な観察者がいて、そこから自分の行いを見ていると書きました。ここで働いているのは、その目です。
ゼロと答えるのは、悪人でしょうか
実験では、それなりの割合の人がゼロを選びます。ですがその人たちが日常で冷酷なわけではありません。
効いているのは、顔が見えないこと、二度と会わないこと、誰が決めたか分からないことの3つです。この3つが揃うと、多くの人の渡す額が下がります。
逆に、相手の写真を見せるだけで額は上がります。名前を伝えるだけでも上がります。人の気前よさは、性格の目盛りというより、状況に対する反応です。
匿名で、断れなくて、一度きり
この3条件が揃う場面は、実は現代にたくさんあります。
下請けの価格、プラットフォームの規約変更、遠くの国の労働条件。 決める側は相手の顔を知らず、相手は断る力を持たず、関係は続きません。
独裁者ゲームが示したのは、そういう場では善意に期待してはいけないということです。多くの人が善意を持っていても、条件が揃えば額は下がります。
崩すべきは、人ではなく条件です
対策は、心構えを説くことではありません。3条件のどれかを崩すことです。
顔を見えるようにする。断る力を残す。関係を続くものにする。独裁者ゲームを最後通牒ゲームに戻すだけで、渡される額ははっきり上がります。
これは道徳の敗北ではなく、設計の問題です。人を良くしようとするより、良くふるまえる形に場を整えるほうが、確実に効きます。