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人性論

じんせいろん

ヒューム·近代

経験主義を徹底し因果律を疑問視した画期的著作

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哲学

この著作について

若き日のデヴィッド・ヒュームが26歳の1739〜40年に匿名で公刊した、英国経験論の到達点にして画期的主著。

【内容】

全3巻。第1巻「知性について」は、知覚を生き生きとした「印象」と記憶上の「観念」に区分することから出発し、観念のつながり、因果関係の分析、帰納の問題、人格同一性、外界への信念の起源を論じる。第2巻「情念について」は、情念を分類し、共感によって情動が人と人のあいだを循環するメカニズムを描く。第3巻「道徳について」では、徳と悪徳の区別が理性ではなく感情に根ざすとし、事実判断「である」から価値判断「べし」は導けないとする「ヒュームの法則」、有用性と共感に基づく正義論が展開される。

【影響と意義】

因果律や自己同一性といった常識の根拠を、習慣と信念の働きに解消してみせた点で衝撃的だった。カントに「独断のまどろみから目覚めさせた」と言わしめ、現代の自然主義分析哲学、道徳心理学、統計的推論の哲学まで、ほぼすべてがここを出発点としている。

【なぜ今読むか】

常識的な因果や自我の概念を根底から揺さぶりながら、代わりに習慣と共感が日常世界を支えていると説く構成は、懐疑と生活が両立するヒューム独自の成熟を体現している。事実と価値の混同を見抜く訓練として、今こそ読みたい古典。

さらに深く

【内容のあらまし】

本書は三巻構成。第1巻冒頭、ヒュームは心に浮かぶものを「印象」と「観念」に二分する。痛みや色のように生き生きしたものが印象、その色褪せた写しが観念である。すべての観念は印象に由来するという原理を立てたうえで、観念どうしを結びつける働きとして類似・近接・因果という三つの連想原理を挙げる。ここまでが議論の道具立てだ。

やがて議論は因果関係の分析という核心に進む。ビリヤードの球が別の球を打つ場面を例に、私たちは原因と結果のあいだに「必然的結合」を観察できるかと問う。実際に見えるのは時間的継起と空間的近接だけであり、必然性は印象として与えられない。それでもなぜ人は次の球が動くと信じるのか。答えは習慣である。繰り返し経験された連結が心に期待を生み、それを必然と感じさせる。帰納推理は理性ではなく心の癖に支えられているという衝撃的な結論が出る。続く人格同一性の議論でも、自我は印象の束にすぎず、固定した実体は見つからないとされる。

第2巻は情念論。誇りと卑下、愛と憎しみが、自分や他者という対象と快苦の印象との二重連合で説明される。人と人のあいだを情動が伝染していく回路として、「共感」の概念が初めて理論化される。

第3巻では道徳が扱われる。徳と悪徳の区別は理性による証明ではなく、是認や非難という独特の感情から生じると論じられる。理性は情念の奴隷であり奴隷であるべきだ、という有名な一句がここに置かれる。さらに「である」という事実命題から「べし」という当為命題が導き出される論証を、ヒュームはどこにも見いださないと書く。後世「ヒュームの法則」と呼ばれる一節である。最後に正義は人為的徳として位置づけられ、所有権や約束は社会の有用性と共感によって支えられる慣習だと結ばれる。

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