鼻
『鼻』
はな
芥川龍之介·現代
芥川龍之介の短編小説
哲学
この著作について
芥川龍之介が東京帝国大学在学中に発表した短編で、『今昔物語集《こんじゃくものがたりしゅう》』『宇治拾遺物語《うじしゅういものがたり》』を下敷きに人間心理の普遍を切り出した出世作。
【内容】
池の尾の僧・内供は、あごまで垂れる長い鼻に悩んでいる。表向きは悟ったふりをするが、密かに気に病み、あらゆる書物で短鼻法を探している。ある日、弟子の勧めで湯に浸けて踏むという荒療治を試すと鼻はみごとに縮み、彼は晴れ晴れとした気分になる。ところがそれまで同情的だった周囲の人々は、短くなった鼻の内供を見てかえって大っぴらに笑うようになり、内供は誰かが不幸から抜け出すことを祝福できない人間心理の深い層に直面する。結末は数日後の朝、鼻がまた元に戻るところで閉じられる。
【影響と意義】
夏目漱石の激賞を受けて芥川を文壇に押し上げた代表作であり、「傍観者は二つの利己主義に操られる」とされる心理分析は、のちの社会心理学における羨望研究やシャーデンフロイデ論にも通じる鋭い洞察として読み継がれている。
【なぜ今読むか】
SNS上で誰かの成功や回復を素直に喜べない自分に戸惑う経験は、現代ではいっそう身近になった。百年前の短い物語が、その感情の構造をあっけなく言い当ててくれる、静かな驚きがある。
著者
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