『悪のシンボリズム』
あくのしんぼりずむ
ポール・リクール·現代
穢れから罪への悪の象徴的変遷を解釈学で辿ったリクール初期の記念碑
この著作について
ポール・リクール(Paul Ricœur)が1960年に刊行した現象学と解釈学の主要著作(原題『La Symbolique du mal』)。『意志の哲学』三部作の第二部『有限性と有罪性』の続編として位置づけられる、リクール初期の記念碑的著作である。
【内容】
本書は、人間がみずからの悪を語り継いできた言語のうちに蓄積された象徴の層位を、現象学的に取り出す壮大な試みである。リクールは三つの象徴様式を区別する。まず最も古層にあるのは「穢れ(souillure)」の象徴で、罪を外的な汚染や触れてはならないものとして経験する古代的想像力である。続いて「罪(péché)」の象徴が現れ、神との人格的関係が断絶された状態として悪を捉える預言者的伝統が開かれる。最後に「負い目(culpabilité)」の象徴が立ち上がり、個人の内面的な自己責任として悪が内在化される近代的良心が形作られる。リクールはこれらを単純な進歩史としてではなく、相互に浸透し合って現代人の道徳意識を重層的に構成する象徴的資源として描く。アダムとエバ、プロメテウス、バビロニア創造神話、ユダヤ教・キリスト教の原罪論を横断する壮麗な神話解釈が圧巻である。
【影響と意義】
本書はのちのリクール『解釈について』『生きた隠喩』『時間と物語』の方法的基盤をなし、ハンス・ゲオルク・ガダマー、ジャン・グレーシュ、チャールズ・テイラーらの哲学的解釈学の展開に直接の影響を残した。神話学・宗教哲学・道徳心理学における象徴論の基本文献である。
【なぜ今読むか】
罪責感・羞恥・穢れの感情が政治とSNSで繰り返し燃え上がる時代に、それらが積層する象徴の層位を識別する訓練として、本書は思考の地盤を与えてくれる。
著者
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