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恋

『恋愛論』

れんあいろん

スタンダール·近代

「結晶作用」概念で恋愛心理を分析したスタンダールの古典

心理文学

この著作について

フランスの作家スタンダール(マリ=アンリ・ベール、1783〜1842)が1822年に刊行した『De l'Amour』の邦訳。失恋の経験から書き始められた、心理分析的恋愛論の古典である。

【内容】

スタンダールは恋愛を「情熱恋愛」「趣味恋愛」「身体的恋愛」「虚栄恋愛」の四種類に分類し、それぞれの段階・症候・発展経路を冷静に観察する。中核概念は「結晶作用」――ザルツブルクの塩鉱に投げ込まれた小枝が塩の結晶で覆われて宝石のように輝くように、恋する者は対象の些細な特徴に次々と完全性を見いだしてゆくという譬えである。「希望」「猜疑」「絶望」など、恋愛の各局面を具体的な事例と歴史的逸話を交えながら分析する。文学的散文としても読みごたえのある章が多い。

【影響と意義】

本書はフロイトの心理学的恋愛論、プルースト『失われた時を求めて』、バルト『恋愛のディスクール・断章』など、後続の恋愛論・恋愛文学に深い影響を与えた。「結晶作用」概念は今日でも心理学・進化心理学・恋愛研究の文脈で言及される基本語彙となっている。

【なぜ今読むか】

マッチングアプリ時代の恋愛にも通じる、恋に落ちる心の構造を最も古典的に分析した一冊である。

どの訳で読むか

新潮文庫の大岡訳は、紙の本と電子書籍の両方で手に入る。詳しい訳注を頼りに読みたいなら、全2冊の岩波文庫の杉本訳がある。ただし上巻の紙の本は品切れで、電子書籍なら上下巻とも読める。別の訳と読み比べたいなら、電子書籍の白井訳もある。

  • 大岡昇平訳新潮社・新潮文庫、1970年

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    新潮社のサイトでの発売日は1970年4月7日で、文庫判624頁。電子書籍もある。

  • 杉本圭子訳岩波書店・岩波文庫、上巻2015年、下巻2016年

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    全2冊の新訳で、版元によれば岩波文庫では1959年以来56年ぶり。詳細な訳注がつく。上巻(446頁)は第二巻第五十三章まで、下巻(422頁)は第五十四章以下と断章、序文や短篇小説などを収める。版元のサイトでは、上巻の紙の本は品切れ、下巻は在庫ありと表示されている(2026年10月時点)。上下巻とも電子書籍がある。

  • 白井浩司訳グーテンベルク21・電子書籍、2014年

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    白井浩司訳の恋愛論は1973年に旺文社文庫で出ており、いまはグーテンベルク21の電子書籍で読める。

さらに深く

【内容のあらまし】

本文は二巻に分かれ、そのあとに断章が続く。第一章の注には、この本は故郷ヴォルテッラで亡くなった、このうえなく優れたイタリアの青年リジオ・ヴィスコンティの手稿を自由に訳したものだとあるが、これは建前である。後年に書かれた序文で、作者は本の成り立ちをみずから語る。例年より華やかだった1820年の謝肉祭の仮面舞踏会のあと、ミラノの社交界では常軌を外れた振る舞いが五つ六つも起こった。一年もすればこの奇妙な出来事と原因とされたことの記憶はおぼろげになると考えた作者は、演奏会のプログラムに鉛筆で書きとめた。のちに紙切れの束を出版社に渡すと、印刷所は鉛筆書きの原稿では仕事ができないと言ってきた。そうして出た本は1822年から1833年までに17人の読者しか得られず、20年たっても理解したのは百人ほどの物好きにすぎないと書く。

第一巻は四つの恋を区別する章で始まる。第二章は恋が生まれる七つの段階を数える。感嘆、口づけを思う気持ち、希望、恋の誕生、第一の結晶作用のあとに疑いが生まれ、彼女は私を愛しているという考えを裏づけるものを、ダイヤモンドのように結晶させる第二の結晶作用が来る。まだ若い恋でいちばん胸を裂かれるのは、推論の誤りに気づき、結晶の一角を壊さなければならないときだという。第十七章は、恋する男には恋人の顔が百単位の幸福を約束すると計算してみせ、注で、美とは幸福の約束にすぎず、ギリシア人の幸福と1822年のフランス人の幸福は違うと書き添える。ひとめぼれの章では、舞踏会で若い大尉と10分踊ったその時から心を奪われたと友人に書き送った女性の手紙が引かれる。第三十一章では、冷たい雨の降る日暮れどきに、恋人の窓の下を涙ながらに歩く男の日記が写される。恋の治療法を論じる章は、友人を治したい者はまず相手の女の側に立たなければならないと説く。

第二巻はヨーロッパ諸国やアメリカなど土地ごとの恋の特徴をたどり、女子教育や結婚制度まで論じる。第五十九章は、笑いものにされた恋する男がサロンを去ったあとで若者たちが始める、モーツァルトのドン・ジュアンのように女を扱うのとウェルテルのようにとではどちらがよいかという議論を取り上げる。断章は、鉛筆の書き込みがある三、四百枚のトランプの札から選んだものとされる。作者の死後の版には、結晶作用という現象を説明し、この言葉の由来を明かす遺稿も加わった。

この著作で扱う問い

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