『オデュッセイア』
ホメロス·古代
英雄オデュッセウスの10年にわたる帰還の旅を歌った叙事詩
この著作について
古代ギリシアの伝説的詩人ホメロスの名に帰される長編叙事詩で、『イリアス』とともにギリシア文学の源泉に位置する。紀元前8世紀ごろに現在の形にまとめられたとされ、全24歌からなる。
【内容】
トロイア戦争を終えたオデュッセウスは、故郷イタケーへの帰路で神々の怒りを買い10年にわたって漂流する。一つ目の巨人キュクロプス、魔女キルケ、海の怪物スキュラとカリュブディス、セイレーンの歌、冥府訪問などの数々の試練を経て、ようやく我が家にたどり着いたとき、妻ペネロペイアの周りには求婚者たちがたむろしていた。彼は乞食に姿を変えて屋敷に潜り込み、息子テレマコスとともに求婚者たちを討って家を取り戻す。知略と忍耐で苦難を切り抜ける「多彩なる人」オデュッセウスの姿が、物語全体の主題をなす。
【影響と意義】
プラトンからアリストテレスに至るギリシア哲学者が繰り返し引用し、西洋文学の最も古い源泉の一つとなった。帰還、異郷との遭遇、アイデンティティの回復という物語類型は、ジョイス『ユリシーズ』をはじめ20世紀文学にまで及ぶ。
【なぜ今読むか】
「家に帰る」という日常的な欲望が、どれほど深く人間の実存に根ざしているかを感じさせる物語である。旅、労苦、成熟、再会。自分の人生の物語を重ね読みできる古典である。
さらに深く
【内容のあらまし】
物語は主人公が登場しないところから始まる。テレマコス王子の章である。父オデュッセウスがトロイア戦争から帰らぬまま二十年が過ぎ、母ペネロペイアの周りには百八人の求婚者が居座って屋敷の財産を蕩尽している。女神アテナの示唆で青年テレマコスは、父の消息を求めてピュロスのネストル王、スパルタのメネラオス王のもとを訪ねる。
物語の視点はオデュッセウス自身に移る。彼は女神カリュプソの島に七年間囚われていた。神々の評議でようやく解放され、いかだで海に出るが、ポセイドンの嵐に遭難してパイアキア人の国に流れ着く。アルキノオス王の宮廷で歓待された彼は、自分の名と漂流の経緯を語り始める。ここから第九歌から第十二歌の有名な冒険譚が回想形式で語られる。蓮喰い人の国で記憶を奪われそうになった話、一つ目の巨人キュクロプスの洞窟で仲間を喰われ「誰でもない」と名乗って脱出した話、風袋を開けて家の近くから吹き戻された話、魔女キルケに豚に変えられた仲間を救った話。
冒険譚の核心は冥府訪問である。オデュッセウスは死者の国の入り口で、母の影、戦友アガメムノンの影、無敵の英雄アキレウスの影と語り合う。アキレウスは冥府の英雄であるより、生きて貧しい農夫の下働きである方がましだと告げる。続いてセイレーンの誘惑、スキュラとカリュブディスの海峡、太陽神の牛を屠った仲間たちの全滅。物語が回想から現在に戻ると、彼はパイアキア人の船で故郷イタケーへ送り届けられる。
後半は復讐の章である。乞食に身をやつしたオデュッセウスは、忠実な豚飼いエウマイオスの小屋に身を寄せ、息子テレマコスと密かに再会する。屋敷に潜入した彼は、求婚者たちの侮辱に耐えながら好機を待つ。妻ペネロペイアが「夫の弓を引ける者と結婚する」と告げ、誰も引けなかった弓を乞食姿の彼が軽々と引いて矢を放った瞬間、復讐が始まる。広間での殺戮ののち、ペネロペイアは寝室の寝台にまつわる秘密を尋ねて夫であることを確かめる。物語は親子三代の和解と平和の誓いで幕を閉じる。
著者
関連する哲学者と話してみる
