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ノヴム・オルガヌム

ベーコン·近代

経験と実験に基づく新しい学問方法を提唱

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科学

この著作について

イングランドの政治家・哲学者フランシス・ベーコンが1620年に公刊した、近代科学方法論の礎となるラテン語の著作。

【内容】

書名は「新しい道具」を意味し、アリストテレス論理学の集成オルガノンに対抗する宣言として名づけられた。全体は2巻構成で、第1巻は短い格言を130個並べて旧来の学問の不毛と改革の必要性を診断する。人間の知解力を歪める「四つのイドラ」(人類共通の種族、個人的な洞窟、言葉の市場、教説の劇場)の分類がよく知られる。第2巻では「熱とは何か」を具体例に、事例を表にして条件を比較検証する「真の帰納法」の実例を丁寧に示していく。

【影響と意義】

「自然は支配されるためにまず服従されねばならない」と説き、観察と実験によって自然を理解し制御する、という近代科学の構えを言語化した。ロンドン王立協会の創立精神を導き、ロックヒューム経験主義、百科全書派、近代工学の発想の源流となった。「知は力なり」の標語は科学技術と社会の関係を論じるとき今なお引き合いに出される。

【なぜ今読むか】

四つのイドラの分析は認知バイアス研究を400年前に先取りしており、フェイクニュースやエコーチェンバーに悩む現代の情報環境でも真新しく響く。科学的に考えるとはどういうことかを根本から問い直す一冊。

さらに深く

【内容のあらまし】

書名のあとに置かれる扉絵には、ヘラクレスの柱の間を一隻の帆船が抜け出ていく図と「多くが行き来し、知識は増す」の銘が刻まれる。古代世界の境界を越えてゆく近代知のマニフェストである。序論でベーコンは、現在の学問が古典の再注釈に終始し、自然そのものを尋ねることをしてこなかったと診断し、知性そのものに新しい道具を与えると宣言する。

第1巻は130の格言からなり、改革の理由を畳みかけるように示していく。アリストテレス論理学の三段論法は、人々の頭のなかにある混乱した観念を結びつけるだけで、自然を捉える力を持たない。古代の「自然学者」たちは個別の事象を集めずに早急に体系を立てた。中世のスコラはひたすらその体系を磨いた。錬金術師は実験はするが盲目で、目的と理論を持たない。

格言41から44にかけて、有名な四つのイドラが定義される。種族のイドラは人類共通の感覚と願望に由来する歪み、つまり自然を擬人化したり対称性を求めすぎたりする傾向。洞窟のイドラは個人の生い立ち・教育・偏好による偏り。市場のイドラは言葉が事物を歪める歪みで、たとえば「運命」「原動者」のような実体のない語が議論を空転させる。劇場のイドラは過去のあらゆる体系が舞台で演じられた虚構の劇のように知性を縛る歪みである。

第2巻は方法そのものの提示にあてられる。題材として選ばれるのは「熱の本性は何か」という問いである。ベーコンは熱を持つ事例の表、熱を欠く事例の表、熱の度合いが変化する事例の表を作る。太陽光・摩擦・発酵・動物の体温などを並べ、月光や凍えた金属には熱がないことを並べ、運動の度合いが熱に対応することを比較していく。三つの表を相互に消去する作業から、最終的に「熱とは小さな粒子の急速で多様な、特に上向きの運動である」という第一の結論を立てる。

本書は完結せず、第3巻以下の予定された膨大な「自然誌」と統合体系は未完に終わる。それでも、観察と実験を集積し、表に整理し、消去によって本質に迫るという手続きが、ここに具体例として示されたことが画期的だった。書の末尾には「自然は支配されるためにまず服従されねばならない」という一節が置かれる。

著者

この著作で扱う問い

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