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仁

『仁王経』

にんのうきょう

大乗仏教経典·古代

国王による護国を説いた護国三部経の一つ

仏教経典

この著作について

正式名『仁王般若波羅蜜経』。鳩摩羅什による旧訳と不空による新訳がある大乗仏教経典で、『法華経』『金光明経』とともに護国三部経と呼ばれる。

【内容】

仏が十六大国の王たちを集め、般若波羅蜜の修行とそれによる国土守護を説く。国王が正法を護持すれば内乱や外敵の難を免れ、護持を怠れば国は乱れる、という政治神学的な構造を持つ。受持・読誦・書写の功徳と、般若空観に基づく菩薩道が並行して語られる。

【影響と意義】

日本では奈良・平安期から仁王会が国家行事として営まれ、鎮護国家の中核経典となった。日蓮《にちれん》の立正安国論にも引かれている。

【なぜ今読むか】

仏教経典のなかで「政治と信仰の結節」を最も明示的に扱った文献として読みうる。

さらに深く

【内容のあらまし】

上下2巻、8品からなる。サンスクリット原典は現存せず、中国で作られた経典とする見方がある。ここでは仁王会で多く用いられた鳩摩羅什《くまらじゅう》訳でたどる。

序品では、十六の大国の王が各々1万から10万の眷属を連れて集う。仏が瞑想に入って光を放ち、頭上から千の宝の蓮華を出すと、29年間般若を説いてきたのになぜいま、と一同は疑う。波斯匿王《はしのくおう》が神通力で8万種の楽を奏でると、諸天や他方の菩薩も楽を奏で、その響きが仏を瞑想から呼び覚ます。

王たちが国土を護る因縁を問いたいと知りつつ、仏はまず菩薩のために仏果を護る因縁を説き、あらゆるものの空を語る。続いて菩薩の歩みが五つの忍にまとめられる。二諦品で王が、究極の真理のなかに世俗の真理はあるのかと問うと、仏は、汝は過去の七仏にも同じことを問うた、いま汝は聞かず、我は説かない、と応じる。有と無は牛の二本の角のように二つだが、照らせば二つはないという七仏の偈《げ》を示す。上巻は、般若波羅蜜が濠や城壁や刀や楯のように国土を護るという言葉で閉じる。

下巻の護国品は具体的な作法を示す。賊が攻めて国が乱れそうなときは、百の仏像と菩薩像と羅漢像を迎え、百人の法師に般若波羅蜜を講じさせる。一日に二度この経を講読すれば、百部の鬼神が聞き、国を護るという。国が乱れるときは、まず鬼神が乱れ、そのために万民が乱れる。外道の師の教えで千人の王の首を家の神に祭ろうとした班足《はんぞく》王は、999人を捕らえたのち、千人目の普明王に一日の猶予を与える。普明王は百人の法師に講じさせ、劫の終わりの火で天地も燃え、身と心さえ離れるのにどうして国があろうかという偈を聞く。普明王がその偈を誦して答えると、班足王は外道に誤られたと王たちを帰し、国を弟に譲って出家する。

散華品で仏が神変を示したあと、受持品は、この経を学ぶ法師の階梯を順に説く。続いて、滅後に法が滅びようとするとき、この経を比丘《びく》や信者ではなく国王に託すと告げる。彼らには王の力がないからだという。そして日月や星の異変から賊の来襲までの七難を挙げ、三宝を護る王の国には五大力菩薩を遣わすと約束する。嘱累品は一転して、未来の王や大臣らが高い地位を頼んで仏法を壊すと予言する。出家や仏像づくりを禁じ、僧を名簿で縛り、僧を地に立たせて俗人が高座に着く。三宝を護る者がかえって壊すさまは、師子身中《しししんちゅう》の虫が師子を食うようだとされる。聞いた十六の王は涙を流し、仏弟子の出家と修行を妨げないと誓う。

真言宗が用いる不空訳では、奉持品で金剛手など五方の菩薩が国を守る陀羅尼を説く場面が加わる。

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