『金光明経』
こんこうみょうきょう
大乗仏教経典·古代
国家鎮護を説く大乗仏教の重要経典
この著作について
四世紀ごろインドで成立し漢訳された大乗仏教の重要経典で、正式名は『金光明最勝王経』。
【内容】
仏が金色の光を放って真実の法を説く場面を中心に、菩薩の修行、四天王による国土守護、懺悔と滅罪、流水長者の因縁などが多彩な物語と教説で展開される。とくに「四天王護国品」は、正法が行われる国土には四天王が現れて守護し、法が乱れれば諸難が起こると説き、東アジアにおける鎮護国家思想の核となった。
【影響と意義】
聖徳太子の四天王寺建立、聖武天皇の国分寺建立、最澄《さいちょう》や日蓮《にちれん》の国家論まで、日本仏教の国家観に深い影響を与えた。
【なぜ今読むか】
仏教が個人の救済だけでなく社会秩序とどう関わってきたかを知る入り口になる。
どの訳で読むか
解説つきの1冊で読みたいなら、総ルビの国訳を付けて教えを解き明かす壬生台舜の仏典講座本が目安になる。このページのあらましと同じ義浄訳を書き下しで読みたいなら、金光明最勝王経を収める昭和新纂國譯大藏經の経典部第4巻がある。見出しと注、解題のついた叢書の形で読みたいなら、国訳一切経の経集部第5巻がある。現代語で内容をつかみたいなら、中村元の「現代語訳 大乗仏典6」の第1章が金光明経にあてられている。
壬生台舜著(国訳つき)大蔵出版・仏典講座13、2006年(OD版)
Amazonで探す版元の紹介文によれば、総ルビの国訳を付け、古くから護国の経典として中国と日本で重んじられたこの経の三身三徳を解き明かす。版元サイトの表記はOD版、392ページ。
三井晶史編纂大法輪閣・オンデマンド版 昭和新纂國譯大藏經 経典部第4巻、2009年
Amazonで探す版元の目次によれば、義浄訳の金光明最勝王経を収め、同じ巻に般若経系の経典5篇も入る。版元が載せる中村元の再刊時の言葉では、このシリーズは全文を書き下し、すべてにふりがなを付けている。4-6判、554ページ。
赤沼智善・西尾京雄・中里貞隆・境野黄洋訳(収録巻全体の訳者)大東出版社・国訳一切経 印度撰述部 経集部5、1931年
Amazonで探す版元の説明では、インドで書かれ漢訳された経典を日本語の読み方で書き下し、内容ごとに区切って見出し(科題)を付け、注と解題を添えたシリーズ。この巻には金光明経とその解題のほか、悲華経、金光明経懺悔滅罪伝、円覚経を収める。版元の目録と同じISBNを持つNDLの1996年刷の書誌は改訂版で、新井慧誉の校訂とある。版元の目録では352頁。
中村元東京書籍・現代語訳 大乗仏典6「密教経典・他」、2004年
Amazonで探す第1章が『金光明経』にあてられ、「護国の経典」「国を治める政治論」「仏典における弁才天」「流水長者の物語」などの節が並ぶ。同じ巻に「理趣経」「大日経」の章もある。判型は46、228ページで、版元のサイトの定価は2,200円(税込)。同じシリーズの第1巻の紹介文は、主要な大乗仏典の精髄を現代語に訳して解説する入門叢書とうたう。
さらに深く
【内容のあらまし】
漢訳は3種が残り、後世に重んじられたのは703年に成った唐の義浄《ぎじょう》訳10巻である。5世紀初めの曇無讖《どんむしん》訳は4巻にとどまる。以下は義浄訳の31の品の順に従う。
舞台は王舎城の霊鷲山《りょうじゅせん》。夕刻、仏は禅定から起って大衆を見渡し、「金光明妙法、最勝諸経王(金光明の妙法は、諸経の中で最も勝れた王である)」と詩で歌い起こす。東の阿閦《あしゅく》、南の宝相、西の無量寿、北の天鼓音の四仏に守られてこの経を説くと告げる。
第2品では妙幢菩薩が、釈迦の寿命はなぜ80年しかないのかと一人で考え込む。すると部屋が浄土のように広がり、蓮の花の上に四仏が現れて、海の水の滴は数えられても釈迦の寿命は数えられないと説く。芥子粒ほどの仏舎利を願うバラモンに、童子が、亀の毛で織った衣を寒い日に着られるようになったら仏舎利を求めよ、とありえないたとえを重ねて答える。バラモンは、仏の身は法身で血肉ではなく、舎利は人々を益するために方便として留めたものだと詩で応じる。
第4品で妙幢は夢を見る。日輪のように輝く大きな金の鼓をバラモンが打つと、その音が懺悔の詩を語りだす。第9品では空があらためて説かれ、この身は、六人の賊が互いを知らずに住みつく空き村にたとえられる。
中盤では守り手が次々に名乗り出る。四天王は、経を敬う王の国を守り、経を広めず聞こうともしない王の国からは去ると告げる。去った後には疫病がはやり、彗星がしきりに現れ、二つの太陽が並び、他国の軍勢が攻め込むという。弁才天は、この経を説く者に知恵と弁舌を授けると約束する。
終盤は、授記を受けた一万の天子のいわれを菩提樹神に問われた仏が、前世の物語を語る。医術に通じた長者の一人息子、流水は、干上がりかけた池で一万匹の魚を見つける。王から借りた20頭の象に皮袋で水を運ばせ、食べ物も与えて、十二縁起《じゅうにえんぎ》を説いて聞かせる。のちに魚たちは天に生まれ、一万の天子となって恩返しに来る。仏はその流水が自分だと明かす。続く捨身品では、仏が手で地を押すと七宝の塔が湧き出て、昔の菩薩の舎利が現れる。由来の物語では、末の王子摩訶薩埵《まかさった》は、7匹の子を産んで7日、飢えて弱った虎の前に身を横たえるが、虎は動かない。山から身を投げても仙人に受け止められ、乾いた竹で首を刺して血を流し、虎に近づく。虎は血をなめて肉を食べ尽くし、兄たちと両親が骨を集めて塔に納める。このあと菩薩や神々の讃歎の品が続き、最後の付嘱品で、仏が涅槃の後にこの教えを守り広める者は誰かと問うと、菩薩や天人、四天王、帝釈天、さらに魔王までが護持を誓う。