『新約聖書』
しんやくせいしょ
パウロ·古代
イエス・キリストの教えと生涯を記したキリスト教の聖典
この著作について
1世紀から2世紀にかけて書かれた、イエス・キリストの生涯と教え、初期教会の歩みを伝える27文書からなるキリスト教の根本聖典。
【内容】
マタイ・マルコ・ルカ・ヨハネの四つの福音書で始まり、使徒言行録、パウロを中心とする書簡群、ヨハネの黙示録で締めくくられる。イエスの誕生・宣教・受難・復活の物語、「山上の説教」の八福、「隣人を自分のように愛せよ」の教え、放蕩息子や善きサマリア人などのたとえ話、そしてパウロが整えた信仰義認の神学が、古代ギリシア語のコイネーで記されている。
【影響と意義】
西洋の倫理・法・芸術・人権思想のほぼすべてに決定的な影響を残した。「すべての人は神の前に等しい」という観念は、近代の人格概念や人権思想の前提となり、カント倫理学、レヴィナスの他者論、キング牧師やガンディーの非暴力思想にも連なっている。絵画・音楽・文学の膨大な遺産の土台でもある。
【なぜ今読むか】
信徒でない読者にこそ、西洋思想の深層を体感するために読む価値がある。隣人愛・赦し・罪・復活という主題は、文学・映画・倫理論争の隅々にまで息づいており、教養の基礎体力として代替しがたい古典。
さらに深く
【内容のあらまし】
新約聖書は四つの福音書から始まる。マタイ、マルコ、ルカは互いによく似ているため共観福音書と呼ばれ、イエスの誕生・宣教・受難・復活が時系列に沿って語られる。ヨハネ福音書は冒頭で「初めにロゴスがあった」と宣言し、より神学的な調子で物語を立て直す。マタイの「山上の説教」では、心の貧しい者・悲しむ者・柔和な者は幸いだと告げる八福が示され、敵を愛し、右の頬を打つ者には左をも向けよ、という常識を覆す倫理が語られる。
たとえ話も豊富である。羊百匹のうち失われた一匹を探しに出る羊飼い、財産を使い果たして帰る放蕩息子を抱きしめる父、強盗に襲われた旅人を助けるサマリア人。これらの物語は、神の愛が人間の常識的な賞罰の論理を超えていることを示す。やがてイエスはエルサレムに入り、最後の晩餐でパンと杯を弟子に渡し、捕えられて十字架にかけられる。三日目の朝、墓は空になり、復活したイエスが弟子たちに現れる。
使徒言行録はそのあとを継ぎ、聖霊降臨の場面、ペトロの説教、ステファノの殉教、迫害者であったサウロがダマスコ途上で回心してパウロとなる場面が描かれる。続く書簡群はそのパウロが各地の教会に宛てた手紙が中心で、ローマ書では信仰によって義とされるという神学が、ガラテヤ書では律法と自由の関係が、コリント書では愛の賛歌が語られる。「愛は寛容であり、愛は親切である」という一節はここに収められている。
最後のヨハネの黙示録は、ローマ帝国の迫害下で書かれた幻視文学である。封印された巻物、四騎士、獣の数字、新しいエルサレムといった激しい象徴を通じて、最終的に悪が裁かれ、神が人とともに住む新天新地が約束されて、聖書全体は閉じられる。古代の文書集でありながら、西洋の倫理・法・芸術・人権思想の遠い源泉として、いまも世界中で読み継がれている。

