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『人間性の心理学』

にんげんせいのしんりがく

アブラハム・マズロー·現代

欲求階層説を体系化したマズローの主著

心理学

この著作について

1954年刊。マズローが一九四三年の論文「人間動機づけの理論」を出発点として、十年余の研究を集成した主著で、後に広く知られる「欲求階層説」が本格的に提示された。

【内容】

生理的欲求、安全の欲求、所属と愛の欲求、承認の欲求、自己実現の欲求という五つの層を、低次から高次へ段階的に積み上げる構造が示される。低次が相対的に満たされてはじめて高次が前景化する、基本的欲求と成長欲求の質的差異、「至高体験(peak experience)」、自己実現者の特徴の経験的記述までが、フロイト・ワトソン流の心理学への批判と並んで展開される。付録として当時の研究課題リストも載せる。

【影響と意義】

マズロー自身が人間性心理学(humanistic psychology)への橋渡しと位置づけた著作であり、教育学・経営学・看護学・カウンセリング実践に広く応用された。カール・ロジャースらと共に「ポジティブ心理学」「自己決定理論」の前史を形作る。

【なぜ今読むか】

仕事・学び・人間関係のモチベーションを考えるとき、古典的図式の出発点を押さえておく意味は大きい。

さらに深く

【内容のあらまし】

邦訳の改訂新版(1987年)が底本にした1970年の第2版は、本文16章と付録2つからなる。序文でマズローは、初版から16年の学びを取り入れた改訂だと述べ、初めは人間性により高い天井を与えるという意味の題を考えていたと明かす。初版の最終章「ポジティブ心理学に向けて」は、1954年には98パーセント正しかったが今では3分の2しか正しくないとして削られた。

第2章は、技法や装置の洗練を重んじる「手段中心」が問題の意味や重要さを軽んじさせると批判する。第3章は動機づけ理論の前置きで、飢えをあらゆる動機の手本にするのは理論の上でも実際の上でも誤りだと言う。

第4章で欲求の階層が組み上がる。人がパンだけで生きるのはパンがないときのことで、腹が満ちていれば、すぐに別のより高い欲求が現れる。ただし階層は固定せず、愛より自尊心を先に立てる人が例外の筆頭に挙がる。また、ある欲求が満ち切ってから次が現れるのではなく、少しずつ現れる。説明のための仮の数字として、平均的な市民なら生理的欲求が85パーセント、安全が70、愛が50、自尊が40、自己実現が10パーセントほど満たされているとされる。第5章から第7章は、欲求の充足の役割、基本的欲求が本能に似ること、高次の欲求ほど人間に固有で自己実現の欲求はどの生き物とも共有しないことを論じる。続く3章は脅威と精神病理、破壊性は本能かという問い、欲求を満たすためでなく状態をそのまま映す行動の「表出」を扱う。

第11章は、好奇心から始めた私的な研究だという断りで始まる。若い人で探した最初の調査では、大学生3000人を選別しても、すぐに使える対象は1人しかいなかった。そこで、年長の対象に見たような自己実現は今の社会の若い人には難しいのだろうと結論し、第2版の序文ではこの概念を年長者に限ったと述べる。対象は知人や友人と、公的人物や歴史上の人物から選ばれ、存命の人は名を明かせない。一覧には晩年のリンカーンとジェファーソン、アインシュタイン、エレノア・ルーズベルト、スピノザらが挙がる。特徴としては、神秘体験を超自然から切り離した至高体験、アドラーの言う共同体感覚などが並び、とても強い人たちなので、ときに外科医のような冷たさを示すとも書かれる。第12章から第15章は、自己実現者の愛、既成の分類に当てはめて済ませる認知、心理療法などを論じる。第16章では、心の健康な人ばかりの理想郷をユーサイキアと名づけ、健康な1000家族が無人の土地へ移り住んだらどんな文化を作るかを想像する。付録は、前向きな心理学が生む研究課題と、全体論的・力動的な見方を説く。

著者

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