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興

『興禅護国論』

こうぜん ごこくろん

中世

栄西の禅宗弁護書

哲学

この著作について

臨済禅を日本にもたらした栄西《えいさい》が、比叡山や南都仏教からの攻撃に応えて著した、日本禅宗の立場を初めて体系的に表明した論書。

【内容】

全三巻の構成で、全編は「令法久住門」「鎮護国家門」「世人決疑門」「宗派血脈門」などの十門に分けられ、戒律の重視、国家の守護、禅に向けられた疑いへの反論、禅の法系などが論じられる。禅は釈尊の本懐を直接伝える教えであること、既存の教宗・律宗と対立するものではないこと、坐禅と戒律を共に重んじることが強調される。書名が示すとおり、禅を興すことは国家を護ることと不離であり、正法が行われる国は自ずから平和になるというのが中心命題である。本書では中国仏教界の現状も語られ、経・律・論、とくに天台宗の古徳の論釈が、典拠を掲げて引かれている。

【影響と意義】

本書は「日本における禅宗独立宣言の書」とも評される。ただし、中世の禅宗隆盛期には広く流布しなかった。それでも、鎌倉初期に禅宗が受け入れられていく状況を語るとき、避けて通れない一次資料である。

【なぜ今読むか】

新しい価値観を社会に導入する者が、既存の権威とどう対話し、どう自らの立場を弁明したかを学ぶ好個の事例である。宗教や思想の「移植」の作法を考えるための、生きた文献として読める。

さらに深く

【内容のあらまし】

本書は鎌倉時代初頭、二度の入宋を終えた栄西が、比叡山からの圧迫に応えるかたちで著された。当時、比叡山延暦寺や奈良の興福寺などの旧仏教は新興の禅宗を排斥し、建久5年(1194年)には栄西らに禅宗停止が宣下されていた。栄西はそれに対して、禅は決して新奇な教えではなく、釈尊の本懐を直接受け継ぐ正統であると論証する必要に迫られていた。

全三巻は十の門に分けられる。栄西はまず第一の「令法久住門」で、仏法の命の源は戒にあり、戒律を守って清浄であれば仏法は久しくとどまると説く。本書は戒律をすべての仏法の基礎に位置づける立場に立つ。第五の「宗派血脈門」で栄西は、自分が伝える臨済禅は、達磨から六祖慧能《えのう》を経て臨済義玄《りんざいぎげん》に至り、さらに南宋の虚庵懐敞《こあんえじょう》から自分が直接受け継いだものであると、師資相承を厳密にたどる。

第三の「世人決疑門」をはじめ、本書は禅に向けられた疑いや誹謗に反論するかたちで議論を進める。「世人決疑門」では、世間で禅宗と呼ばれる達磨宗が戒も修行も要らないと称している、という問いも取り上げられ、栄西は彼らを、空を誤って解する者として退け、近づかないよう説く。不立文字《ふりゅうもんじ》については、第六門で、教外別伝・不立文字の教えが諸経論のなかにも説かれていることが示される。第八の「建立支目門」では、栄西が構想する禅宗寺院の規式が示され、戒律の重要性が説かれる。

本書の題名「興禅護国」が示す、禅を奉ずれば国家が守られるという主張は、第二の「鎮護国家門」で説かれる。禅を興すことは私的な宗派の利益ではなく、正法によって国家を内側から守る公的な営みである。災厄や戦乱の予兆が続く時代に、王土を平安にするのは武力ではなく正しい仏法の流通である、と栄西は主張する。書物は弁明であると同時に、新しい時代へ宗教の役割を再定義した宣言でもあった。

著者

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