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アイデンティティ 青年と危機

あいでんてぃてぃ せいねんと きき

エリクソン·現代

「アイデンティティ」概念を確立した発達心理学の名著

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心理学

この著作について

ドイツ出身の精神分析エリク・エリクソンが1968年に公刊した、アイデンティティ概念を体系的に論じた発達心理学の重要著作。

【内容】

青年期における「自分は何者か」という問いを心理学的に分析し、「アイデンティティの危機」という概念を確立する。エリクソン独自の心理社会的発達理論では、人間の一生が八つの段階に分けられる。乳児期の基本的信頼対不信から、幼児期の自律、学童期の勤勉、青年期の同一性、成人期の親密さ・世代性、そして老年期の自我統合対絶望へと続く道筋である。青年期の「モラトリアム」は、大人になるまでの社会的猶予期間として概念化される。マルティン・ルターガンディーの生涯分析を通じて、個人の同一性形成と時代の歴史的要請がどう絡み合うかも描かれる。

【影響と意義】

「アイデンティティ」「アイデンティティ・クライシス」「モラトリアム」などの概念は日常語として定着した。教育学・臨床心理学・社会学に広範な影響を与え、「自分探し」というフレーズの背景思想ともなっている。

【なぜ今読むか】

「自分は何者か」という青春期特有の問いを、学問的に整理してくれる。キャリアや生き方の見直しで立ち止まった時にも、発達心理学の全体地図として役立つ。

さらに深く

【内容のあらまし】

エリクソンは序論で、自分が亡命者として複数の言語と文化を行き来してきた経験から、アイデンティティという主題に行き着いたと述べる。アイデンティティは静的な属性ではなく、内側の自己感覚と外側の社会的承認とがぶつかり合うなかで形作られる動的な構造として位置づけられる。

第一段階で心理社会的発達の八段階が示される。乳児期の基本的信頼対不信、幼児期の自律対恥、遊戯期の自発性対罪悪感、学童期の勤勉対劣等感、青年期の同一性対同一性拡散、成人初期の親密対孤立、壮年期の生殖性対停滞、老年期の統合対絶望である。各段階で人は、その時期に固有の発達課題、いわゆる危機を通過する。危機は病ではなく成長のチャンスであり、解決の仕方が次の段階の地盤になる。

第二段階で青年期に焦点が絞られる。子ども時代に与えられた役割や同一化を組み直し、自分は誰でどこへ向かうのかを問い直す時期である。エリクソンはこの組み直しの猶予期間をモラトリアムと呼ぶ。社会は青年に職業選択や責任を一部留保する権利を与え、青年はその猶予のなかでさまざまな自己を試す。同一性が形成されない場合の症状として、役割混乱、否定的同一性、過剰な集団同一化、時間感覚の歪みなどが描かれる。

中盤で歴史的人物の伝記研究が織り込まれる。エリクソンは別著作で展開した修道士マルティン・ルターの青年期の苦悩や、中年期のガンディーがインドで非暴力抵抗を組織していく過程をここで簡潔に振り返り、要点だけを再提示する。個人のアイデンティティ形成は、本人の内的葛藤と、その時代が要求する歴史的役割とが噛み合った地点で達成される。ルターやガンディーが歴史を動かしえたのは、自分の私的危機を時代の集合的危機と重ね合わせることができたからだ、というのが彼の中心的な読みである。

後半で集団的アイデンティティの問題が論じられる。人種、ジェンダー、世代、国民といった範疇が、個人のアイデンティティに肯定的にも否定的にも食い込む。アメリカの公民権運動、女性の地位、若者文化が同時代の事例として取り上げられる。

結部でエリクソンは、アイデンティティと相互性は対をなすと述べる。自分が何者かを引き受けることと、他者を他者として受け入れることは、同じ過程の二面である。

本書はこの倫理的な含意を示して閉じられる。

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