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『アイデンティティ 青年と危機』

あいでんてぃてぃ せいねんと きき

現代

「アイデンティティ」概念を確立した発達心理学の名著

心理学

この著作について

ドイツ出身の精神分析家エリク・エリクソンが1968年に公刊した、アイデンティティ概念を体系的に論じた発達心理学の重要著作。

【内容】

青年期における「自分は何者か」という問いを心理学的に分析し、「アイデンティティの危機」という概念を確立する。エリクソン独自の心理社会的発達理論では、人間の一生が八つの段階に分けられる。乳児期の基本的信頼対不信から、幼児期の自律、学童期の勤勉、青年期の同一性、成人期の親密さ・世代性、そして老年期の自我統合対絶望へと続く道筋である。青年期の「モラトリアム」は、大人になるまでの社会的猶予期間として概念化される。ジョージ・バーナード・ショーやウィリアム・ジェームズの生涯も短く取り上げられ、同一性の混乱が個人の創造性とどう関わるかが探られる。

【影響と意義】

「アイデンティティ」「アイデンティティ・クライシス」「モラトリアム」などの概念は日常語として定着した。教育学・臨床心理学・社会学に広範な影響を与え、「自分探し」というフレーズの背景思想ともなっている。

【なぜ今読むか】

「自分は何者か」という青春期特有の問いを、学問的に整理してくれる。キャリアや生き方の見直しで立ち止まった時にも、発達心理学の全体地図として役立つ。

さらに深く

【内容のあらまし】

エリクソンは、アイデンティティという概念が戦争帰りの兵士たちの精神的な不調を診る臨床の場で初めて使われたことを振り返る。患者の多くは戦争のなかで、個人としての同一性と歴史的な連続性の感覚を失っており、エリクソンはそれを自我同一性の喪失と呼んだ。アイデンティティは静的な属性ではなく、内側の自己感覚と外側の社会的承認がぶつかり合うなかで形作られる動的な構造とされる。

第一段階で心理社会的発達の八段階が示される。乳児期の基本的信頼対不信、幼児期の自律対恥、遊戯期の自発性対罪悪感、学童期の勤勉対劣等感、青年期の同一性対同一性拡散、成人初期の親密対孤立、壮年期の生殖性対停滞、老年期の統合対絶望である。人は各段階に固有の発達課題、いわゆる危機を通過する。危機は病ではなく成長の好機であり、その解決が次の段階の地盤になる。

第二段階で青年期に焦点が絞られる。子ども時代に与えられた役割や同一化を組み直し、自分は誰でどこへ向かうのかを問い直す時期である。エリクソンはこの組み直しの猶予をモラトリアムと呼ぶ。社会は青年に職業選択や責任を一部留保する権利を与え、青年はその間にさまざまな自己を試す。同一性が形成されない場合の症状として、役割混乱、否定的同一性、過剰な集団同一化、時間感覚の歪みなどが描かれる。

中盤で、ジョージ・バーナード・ショーやウィリアム・ジェームズの生涯をめぐる短い伝記研究が織り込まれる。修道士マルティン・ルターの青年期の苦悩は1958年の別著作で、中年期のガンディーがインドで非暴力の運動を率いる過程は本書の翌年の1969年に出た別著作で、それぞれ詳しく論じられている。個人のアイデンティティ形成は、内的葛藤と、時代が求める歴史的役割とが噛み合った地点で達成される。ルターやガンディーが歴史を動かしえたのは、私的危機を時代の集合的危機と重ね合わせられたからだ、というのが彼の中心的な読みである。

後半で集団的アイデンティティが論じられる。人種、ジェンダー、世代、国民といった範疇が、個人のアイデンティティに肯定的にも否定的にも食い込む。1960年代に特有の社会的抗議や性役割の変化が、同時代の問題として扱われる。

最後の章は人種を扱い、より広いアイデンティティという言葉を題に掲げる。

著者

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