実
『実験小説論』
じっけんしょうせつろん
エミール・ゾラ·近代
小説家を科学者に擬したフランス自然主義文学の宣言
文学科学
この著作について
フランス自然主義文学の主導者エミール・ゾラ(1840〜1902)が1880年に刊行した評論集『Le Roman expérimental』の邦訳。クロード・ベルナール『実験医学序説』を文学に応用しようとした宣言的論考である。
【内容】
表題論文は、医師ベルナールが提示した実験医学の方法を小説に移植する企図を語る。観察によって現象を記録し、仮説を立て、実験によって検証するという科学的手続きを、小説家もまた登場人物と環境の組合せに対して行うべきだとされる。人間の行動を遺伝と環境の産物として描くこと、美化や道徳的判断を排して観察対象として現実をありのまま記述すること、社会の暗部や貧困・病気・性的倒錯を直視することを文学の任務として宣言する。集中の他の論考では「ロマン主義者と自然主義者」「金と文学」など、文壇政治と社会と科学が交差する論点が扱われる。
【影響と意義】
本書はフランス自然主義の理論的綱領となり、ゾラ自身の『ルーゴン=マッカール叢書』20巻の方法論的支柱となった。ドイツのハウプトマン、アメリカのドライサーやノリス、日本の田山花袋《たやまかたい》・島崎藤村《しまざきとうそん》ら世界各国の自然主義文学に直接影響を与え、二十世紀のリアリズム文学・ノンフィクション文学の理論的源流のひとつとなった。
【なぜ今読むか】
「ありのまま」を描くことが本当に可能か、観察と虚構のあいだに何があるかを考えるための、文学理論の出発点となる古典である。