『十二夜』
じゅうにや
近代
男装の若き令嬢が起こす恋の三角関係を描くシェイクスピア喜劇の到達点
この著作について
ウィリアム・シェイクスピアが1601〜02年頃に執筆したとされる五幕の喜劇。『お気に召すまま』と並ぶシェイクスピア喜劇の最高傑作で、ジェンダー・自己同一性・憂鬱と喜びの交錯を扱った、爛熟期の作品である。
【内容】
船で難破し双子の兄と生き別れたヴァイオラは、男装しセザーリオと名乗って、イリリア公爵オーシーノの小姓として仕える。公爵はオリヴィア伯爵令嬢に恋しているが、オリヴィアはセザーリオ(実は女性のヴァイオラ)に恋をしてしまう。並行して執事マルヴォーリオへの悪戯、道化フェステの歌、酔っ払いのサー・トビーと間抜けな求婚者サー・アンドルーの茶番が組み合わさり、最後は双子の兄セバスチャンの登場で全てが解きほぐされる。
【影響と意義】
男装・ジェンダー流動性・自己同一性の主題を扱う現代的作品として、20世紀後半以降のクィア批評・フェミニズム批評で頻繁に読み直されている。道化フェステの「ヘイ、ホー、風と雨」の歌は劇の憂愁を象徴する名句。
【なぜ今読むか】
性と恋の役割が流動化する現代社会において、400年前にこの主題を喜劇に昇華していた作品の先見性が光る。
どの訳で読むか
文庫で読むなら、岩波文庫の小津訳、ちくま文庫の松岡訳、光文社古典新訳文庫の安西訳、角川文庫の河合訳がある。小津訳は版元が上演台本として入念に仕上げた翻訳と紹介しており、安西訳には訳者の解題と年譜がつく。文庫以外では、白水Uブックスの小田島訳と、新潮オンデマンドブックスの福田訳がある。
小田島雄志訳白水社・白水Uブックス、1983年
Amazonで探す新書判、174頁。白水Uブックスの「シェイクスピア全集」シリーズの1冊(U22)。版元のサイトでは在庫僅少と表示されている(2026年10月時点)。
小津次郎訳岩波書店・岩波文庫、1960年
Amazonで探す174頁。版元の紹介文は、この訳を「上演台本として入念に仕上げられた翻訳」とうたう。
松岡和子訳筑摩書房・ちくま文庫、1998年
Amazonで探すちくま文庫版のシェイクスピア全集の第6巻。208頁で、前沢浩子の解説がつく。
安西徹雄訳光文社・光文社古典新訳文庫、2007年
Amazonで探す訳者の解題、年譜、訳者あとがきを収め、おもな登場人物を記したしおりがつく。電子書籍もある。
河合祥一郎訳KADOKAWA・角川文庫、2011年(刊行時は角川書店)
Amazonで探す書名の頭に「新訳」がつく。文庫判、160頁で、電子版もある。
福田恆存訳新潮社・新潮オンデマンドブックス、2001年
Amazonで探す新潮オンデマンドブックスの1冊で、発売日は2001年6月1日、148頁。
ほかに、十二夜を含む6作を1冊に収めた石井美樹子訳(河出書房新社、2024年、468頁)があり、版元はイギリス史研究をもとに作品の背景にある史実や風俗を読み解いた訳とうたう。七五調で訳した今西薫訳(風詠社、2024年)と、全戯曲の英語原文と坪内逍遥の訳を1冊に収めた本(第三書館、2016年)もある。
さらに深く
【内容のあらまし】
副題を「What You Will(何なりとお好きに)」とする五幕の喜劇は、恋わずらいの公爵の台詞「If music be the food of love, play on(音楽が恋の糧なら、奏で続けよ)」で幕を開ける。使いは、オリヴィアが亡き兄を悼んで七年は顔を見せないと伝える。
難破船から岸に上がったヴァイオラは、ここがイリリアだと知る。正体を隠し、男装のセザーリオとして公爵に仕える。求愛の使者を任されると、誰を口説こうと自分が公爵の妻になりたいとひとりごちる。オリヴィアの前に出たヴァイオラは、門前に柳の小屋を建てて名を呼び続けると口上を述べ、相手の心を動かす。指輪の意味を悟ったヴァイオラは、もつれた結び目をほどくのは時間に任せるしかないと嘆く。
伯爵家の真夜中、サー・トビーたちが歌い騒ぐと、執事マルヴォーリオがとがめに来る。トビーは、お前が品行方正だからケーキもエールもなくなると思うのかとやり返し、侍女マライアは女主人の筆跡をまねた手紙で仕返しを企む。公爵の前のヴァイオラは、父の娘が恋を打ち明けず、記念碑の上の忍耐の像のように悲しみに微笑んでいたと語る。手紙を拾ったマルヴォーリオは、「M.O.A.I.」の謎を自分の名に引き寄せ、生まれつき偉い人、偉さを勝ち取る人、偉さを押しつけられる人がいるという文句に浮き立つ。
黄色い靴下に十字の靴下留め、笑顔で女主人の前に現れた執事が立ち去ると、仕掛け人フェイビアンは、舞台の出来事ならありえない作り話だとけなすところだと言う。トビーは執事を暗い部屋に閉じこめようと言い、アンドルーをけしかけてヴァイオラと決闘騒ぎを仕組む。割って入った船乗りのアントーニオは、役人に捕らえられる。
生きていたヴァイオラの兄セバスチャンは、セザーリオと間違えたアンドルーに殴られ、殴り返しながら、みんな狂っているのかと驚く。止めに入ったオリヴィアは、彼をセザーリオと思って屋敷へ連れ込む。暗い部屋の執事は、牧師サー・トーパスに化けた道化に問いつめられる。のちにオリヴィアは神父の前で、セバスチャンと契りを交わす。
第5幕、オリヴィアがヴァイオラを夫と呼び、神父も証言したため、公爵は裏切られたと怒る。そこへセバスチャンが現れ、同じ顔、同じ声、同じ服の二人が並ぶと、公爵は、自然が作った、あって無いだまし絵だと声をあげる。手紙のからくりも明かされ、マルヴォーリオはお前たち全員に仕返ししてやると言い残して去る。最後に道化が、ヘイ・ホー、風と雨と繰り返しながら、子ども時代から大人になり、妻をもらい、寝床につくまでを歌い、芝居はこれでおしまい、と客席に告げる。
著者
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