遠
『遠野物語』
とおのものがたり
柳田国男·近代
岩手遠野に伝わる神・妖怪・死霊の口承を採録した日本民俗学の原点
文学日本
この著作について
民俗学者・柳田国男が1910年に自費出版した、岩手県遠野地方の口承伝承集。遠野出身の青年・佐々木喜善から聞き書きした119話を簡潔な文語体で書き留めた、日本民俗学の出発点となった記念碑的書物である。
【内容】
山男・山女・座敷童子・カッパ・天狗・神隠し・死者の帰還といった、近代以前の日本の山村に現実として息づいていた「不思議な出来事」が、短い断章として列挙される。人と山の境界、死者と生者の境界、自然と人間の境界が曖昧に交錯し、明治の近代化が進む国家の内部に残存していたもう一つの世界観が立ち現れる。「願わくはこれを語りて平地人を戦慄せしめよ」という序文の一句は有名。
【影響と意義】
折口信夫『古代研究』、南方熊楠の書簡類、戦後の宮本常一らの民俗学と並び、日本民俗学の基礎を築いた。三島由紀夫、井上ひさし、吉本隆明ほか多くの作家・思想家に深い影響を与え、怪談・ホラー・アニメーション(『千と千尋の神隠し』ほか)の想像力の水源にもなっている。
【なぜ今読むか】
近代以前の日本の精神風景に直接触れられる原体験として、いまも開くたびに読み手の感覚を揺さぶる。