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太

『太極図説』

たいきょくずせつ

周敦頤·中世

太極から万物が生成する宇宙論を約250字で図解した道学の根本書。

哲学

この著作について

北宋の周敦頤が著した、約250字という極めて短い宇宙論的著作である。太極から陰陽五行を経て万物と人倫が生成する過程を、図と文によって体系的に示す。岩波文庫『近思録』所収のほか、複数の現代語訳で読むことができる道学(朱子学)の根本文献である。【内容】「無極にして太極、太極動いて陽を生ず」と始まり、太極の動静から陰陽が分かれ、陰陽の交感から五行(水火木金土)が生じ、五行の精と乾坤の道が交わって万物が生成すると説く。さらに「人」が万物の秀を得て生まれ、聖人は中正仁義の道をもって人倫の極を立てると論じる。宇宙生成と道徳的人格の連続性を端的に提示し、形而上の理と形而下の気、自然と倫理を一筋の論理で結ぶ。【影響と意義】南宋の朱熹が『太極図説解』を著してこれを顕彰したことにより、道学(朱子学)の出発点に位置づけられた。以後、東アジアの儒学的世界観の基盤として、朝鮮の李退渓・李栗谷、日本の藤原惺窩・林羅山・山崎闇斎、ベトナムの儒者にまで広く受容された。陸九淵との「無極太極論争」は思想史上の有名な対決として知られる。【なぜ今読むか】宇宙の生成と人間の道徳を一つの理で結ぶ思考様式を、最も凝縮された形で味わえる東アジア思想の出発点である。

どの訳で読むか

太極図説を収めた岩波文庫は版元で品切れなので、いま手に入る訳では、朱熹と呂祖謙が編んだ『近思録』の巻頭、巻一にある全文を読むことになる。文庫で訓読文と現代語訳、注釈をそろえて読みたいならタチバナ教養文庫の湯浅訳の上巻、全14巻を1冊で通して見たいなら新釈漢文大系の市川訳が目安になる。

  • 湯浅幸孫訳たちばな出版・タチバナ教養文庫(上・中・下)、1996年

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    文庫の上巻(397ページ)に、巻頭の太極図説を含む巻の一「道体篇」から巻の三までが入る。版元は訓読文と現代語訳に丁寧な注釈をつけたものと紹介している。上巻は版元で在庫あり(2026年10月時点)。

  • 市川安司訳明治書院・新釈漢文大系37、1975年

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    A5判676ページの1冊本。版元のシリーズ紹介によれば、原典全文・訓読・訳・注で構成され、索引もそなわる。目次は巻一「道体」から巻十四「総論聖賢」までで、太極図説は巻頭の巻一に入る。版元で在庫あり(2026年10月時点)。

  • 福田晃市訳解明窓出版、2009年

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    副題に「基礎からよく分かる」「朱子学の入門書」とある396ページの1冊。版元ドットコムの紹介文は本書を完訳とし、目次は「道体」から始まる。版元ドットコムでは出版社の在庫情報が「不明」となっている(2026年10月時点)。

ほかに、太極図説のほか通書、西銘、正蒙を収めた岩波文庫(西晋一郎・小糸夏次郎訳註、1938年)があるが、版元では品切れと表示されている(2026年10月時点)。

さらに深く

【内容のあらまし】

本書は一枚の図と、それを読み解く短い説からなる。図は五つの部分を上から積み重ねたもので、最上段は中に何も描かない円、二段目は黒と白で塗り分けて陰陽《いんよう》を表した円、三段目は水火木金土の五行を表す五つの部分を線で結んだ図である。その下に天と地の交わりを表す円が、最下段には万物が生まれることを表す円が置かれる。説はこの図を、始原のひとつから万物へと分かれていく上から下への順にたどって言葉にしていく。

動と静が交互に互いの根となって陰陽が立ち、陰陽の変化と結合から五行が生じ、五つの気が順にめぐって四季が進む。そこまで下りて、説はいったん来た道を逆にたどる。五行は一つの陰陽、陰陽は一つの太極であり、「太極本無極也(太極は本と無極なり)」と言う。さらに五行はそれぞれ固有の性をもつという。続いて無極の真実と陰陽五行の精髄とが合わさって凝り、乾《けん》の道が男となり坤《こん》の道が女となって、万物は尽きることなく生まれ、変化していく。

後半で筆は人間に向かう。人の形が生まれると精神が知を発し、五つの性が感じて動くところで善悪が分かれ、あらゆる事柄が起こる。聖人は中正仁義でそれを定め、静を主として人としての極みを立てる。このくだりに、周敦頤《しゅうとんい》は二つの小さな割注を自分で添えた。聖人の道は仁義中正にほかならないという注と、欲が無いから静かなのだという注である。どちらも、四十章からなる彼のもう一つの著作の第6章と第20章から取られている。欲を無くし静を主とするという言い方は仏教や道教の響きを帯び、欲を抑えよと説いても無くせとは言わない多くの儒者には、引っかかる言葉だった。

結びは、聖人が天地と徳を、日月と明るさを、四季と順序を、鬼神と吉凶を合わせるという『易経』の一節で始まる。周敦頤は、君子はこれを修めて吉、小人はこれにそむいて凶だと続け、天の道は陰と陽、地の道は柔と剛、人の道は仁と義だという一節と、始めをたずねて終わりに返るから死と生の道理がわかるという一節を引き、易の偉大さを讃えて閉じる。

図は道士の陳摶《ちんたん》に由来するとされ、もとは下から上へ、体内で始原の無極へと還る修行の道筋を表したものだったとも考えられている。周敦頤はその読み方を採らず、人間を宇宙の創造のいちばん高い現れとして際立たせ、図に儒教の意味を与えた。1175年、朱熹と呂祖謙《りょそけん》はこの説を『近思録』の巻頭に据えた。冒頭の一句は、『近思録』では「無極而太極」だが、洪邁《こうまい》が国史の周敦頤伝に記したのは「自無極而為太極」で、朱熹は何に拠って自と為の二字を足したのかと問いただした。

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