『モードの体系』
もーどのたいけい
現代
ファッションを記号論的に読み解いたバルトの大著
この著作について
ロラン・バルトが1967年にパリで公刊した、婦人ファッション誌の言語を対象とする記号論的分析の大著。『エル』『ジャルダン・デ・モード』誌のテクストを素材に、衣服という対象そのものではなく「書かれた衣服」の意味作用を解析する、構造主義期バルトの方法論的集大成である。
【内容】
全3部。まずソシュール言語学とイェルムスレウ記号論を援用して、ファッション記述の二重の分節(技術的コードと修辞的コード)を取り出す。次に、ファッション誌のキャプションに現れる季節、アクセサリー、色、素材のレトリックを、神話作用の道具として機能する仕方で精密に記述する。最後に、ファッション言語が「常に新しいが常に同じ」というパラドクスをもたらし、現代消費社会の時間意識を形作るメカニズムとして分析される。
【影響と意義】
ファッション研究を趣味の領域から学問的対象へ引き上げた画期的著作で、以後の文化研究、消費社会論、ブルデューの界理論、ボードリヤールの記号の政治経済学批判などに直接の影響を与えた。
【なぜ今読むか】
インフルエンサーと広告コピーがファッションを動かす時代に、「書かれた衣服」が欲望をどう組織するかを精密に解析した手つきは今こそ効く。バルト流の観察眼を体験する濃密な一冊である。
さらに深く
【内容のあらまし】
まえがきでバルトは、この本はすでに古びていて少し素朴だと断り、記号学のひとつの歴史として読んでほしいと頼む。おもな素材は、1958年6月から1959年6月までの女性誌「エル」と「ジャルダン・デ・モード」に載った衣服の記述である。
序論の第1章は三種類の衣服を見分ける。写真に写った衣服、ことばで書かれた衣服、現実に着られる衣服だ。書かれた衣服を選ぶのは、それが実用の働きでも美の働きでもなく、意味の働きを観察するのに向いているからである。写真は見る水準が読み手しだいで意味が定まらないが、文章は知覚を止めて、ここを見よと指示する。第2章は言語学の入れ換えテストを持ちこむ。「競馬場ではプリントの布地が全盛です」のプリントを無地に換えると、競馬場はガーデンパーティーに変わる。こうした衣服と世界を結ぶ言表を集合A、背中でボタンを留める服を前留めに換えると流行外れになるような、衣服とモードそのものを結ぶ言表を集合Bとする。
第I部「衣服のコード」は記述を最小の単位に分ける。えりを開けるか閉じるかでスポーティーにもドレッシーにもなるカーディガンという記述なら、カーディガンが対象、えりが支持項、開閉が変異項にあたる。第8章は対象と支持項になる衣服の類を60項目の目録にし、第9章と第10章は重さや透明さ、開き具合、左右や前後の位置といった変異項を並べる。第11章「体系」は、軽くても重くてもこれこそリネンだという記述のように、重さの対立が効かなくなる中性化を調べる。第I部は第15章まで、書かれた衣服の側、意味される側、両者を結ぶ記号の順に進む。
第II部「レトリックの体系」は雑誌の文体に移る。第17章「衣服の詩」によれば、記述は自然、地理、歴史、芸術という女学生の教養を借りて衣服を飾る。「小さなガンス(飾りひも)がエレガンスを作ります」の「小さな」には、ささやかでつつましく感じのよいという価値が乗り、幸福な気分を呼びおこす。第18章「モードの世界」で、バルトは雑誌の描く女性を一人の人物に組み上げる。名はデイジーかバーバラ、重役秘書で、週末ごとに田舎へ行き、カプリ島やタヒチへ旅をし、パスカルからクール・ジャズまで何でも愛する。それは読者その人であり、読者がなりたい姿でもあるという。第19章「モードの合理」は、衣服と意味を結ぶ関係そのものを扱う。雑誌はアクセサリーが春を意味するとは書かず、「アクセサリーが春を作ります」と書いて、恣意的な結びつきを因果のような自然な関係に見せかける。
結論に第20章「体系の経済体制」を置き、付録に「歴史とモードの通時態」「モード写真」の2篇を添えて本は閉じる。
著者
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