『法の精神』
ほうの せいしん
モンテスキュー·近代
三権分立を論じた近代政治制度論の基礎
この著作について
ボルドー高等法院の法官を務めたモンテスキューが20年以上かけて執筆し、18世紀半ばに匿名で公刊した比較政治学の古典。
【内容】
全31編の大著。各政体に対応する「原理」すなわち人びとを動かす情動を分析する独自の発想で貫かれる。共和政は徳(公共への献身)、君主政は名誉、専制政は恐怖を原理とし、これらに応じて法・風習・刑罰・婚姻・商業慣行が組織されるべきだと論じる。第11編は政治的自由を論じ、立法・執行・司法の三権を分離する英国国制を範として提示する。後半は気候・土壌・商業・貨幣・宗教・風俗と法との関係を比較社会学的に分析し、末尾ではローマ法やフランク法の歴史的変遷を辿る。
【影響と意義】
法律を単なる命令の集積ではなく、風土・社会・歴史と切り離せないものとして捉え直した点が革新的だった。アメリカ合衆国憲法の設計者たちがもっとも参照した書物であり、フランス人権宣言・近代憲法学・比較法・政治社会学の共通の出発点となった。
【なぜ今読むか】
「権力を持つ者はすべて、それを濫用しがちである」という冷徹な観察から、権力が権力を抑止する制度設計が導かれていく論理展開は、政治制度を考えるすべての読者にとって基礎トレーニングになる。
さらに深く
【内容のあらまし】
冒頭でモンテスキューは法を「事物の本性から必然的に派生する関係」と定義する。物理法則も国法も同じ広い意味で法と呼べる、という大づかみな視点から議論が出発する。続いて政体は共和政・君主政・専制政の三つに整理される。重要なのは、それぞれを動かす情動である「原理」の同定だ。共和政は徳すなわち公共心、君主政は名誉、専制政は恐怖を原理とする。原理が腐ればその政体も腐る、というのが本書を貫く診断装置になる。
中盤では原理に応じて法が組み立てられる様子が描かれる。共和政では奢侈を抑え平等を保つ法、君主政では身分秩序と名誉を支える法、専制政では恐怖で秩序を維持する刑罰法、というように、教育・婚姻・刑罰・財産制度が政体と緊密に結びつく。
第11編で議論はクライマックスを迎える。政治的自由を確保する制度として、立法・執行・司法を別々の機関に委ねる三権分立が提示される。モデルは英国国制である。「権力を持つ者はすべてそれを濫用しがちである。彼が限界に出会うまで進んで行く」という有名な一句が記され、権力を権力で抑える設計が憲法学の出発点となる。
後半では風土論が展開される。気候の冷暖、土壌の肥痩、商業の有無、宗教的伝統、習俗が法のかたちにどう作用するかを比較する筆致は、すでに比較社会学そのものだ。商業は穏やかな風俗を生み、戦争を減らすという議論は近代的平和論の先駆として読まれる。奴隷制への厳しい批判もここで皮肉な調子とともに展開される。終盤ではローマ法の継受、フランク族の慣習法、封建法の歴史的変遷が辿られ、法とは歴史と環境のなかで育つ生き物だという結論で全編が閉じられる。
著者
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