『若きウェルテルの悩み』
わかきうぇるてるのなやみ
近代
ゲーテによるロマン主義感性の原型となった書簡体小説
この著作について
二十代半ばの若きヨーハン・ヴォルフガング・フォン・ゲーテが、自らの失恋体験と友人の自殺をもとに短期間で書き上げた書簡体小説で、ヨーロッパにロマン主義の嵐を呼び込んだ出世作。
【内容】
主人公ウェルテルは、田舎町で才気あふれる娘ロッテに出会い、深い恋に落ちる。しかしロッテには既に婚約者アルベルトがいて、ウェルテルは身分差と既存の道徳との板挟みに苦しみ、転地と職業で気を紛らそうとしても失敗する。彼は友人ヴィルヘルムに宛てた手紙のなかで、自然の美、民衆への愛、古典古代の記憶を語りながら、少しずつ絶望の深みへと沈んでいき、最後にアルベルトから借りたピストルで自らの命を絶つ。手紙の筆致は瑞々しく、感情の昂ぶりと静かな観察とが細やかに交錯する。
【影響と意義】
刊行直後からヨーロッパ中で「ウェルテル熱」と呼ばれる熱狂を呼び、服装や仕草までが模倣され、ウェルテル風の自殺が相次いだと伝えられる。啓蒙主義の冷静な理性とは別種の、感情と自然と想像力を前面に出す文学の流れをつくり出し、のちのロマン主義、シュトゥルム・ウント・ドラングの代表作と位置づけられている。
【なぜ今読むか】
SNS時代に若い命を自ら絶つニュースが絶えない現実の中で、本書は「感情を抑えきれない若者の手紙」としていまも切実である。同時に、熱狂的に自分の感情を語る人間の危うさと美しさを、一冊の書簡体小説として体験できる稀有な古典である。
どの訳で読むか
ゲーテが1774年に出した初版の形で読みたいなら、版元が初版からの翻訳とうたう光文社古典新訳文庫の酒寄訳がある。1951年から出ている文庫には、巻末に解説と注のある岩波文庫の竹山訳と、新潮文庫の高橋訳がある。ゲーテの別の作品とあわせて単行本で読むなら作品社の大宮訳で、書名ではウェルテルをヴェルターと表記している。
高橋義孝訳新潮社・新潮文庫、1951年
Amazonで探す版元のサイトによれば1951年3月2日に発売された。240ページで、電子書籍もある。
竹山道雄訳岩波書店・岩波文庫、1951年
Amazonで探す1951年4月に岩波文庫で出た。通し番号は赤405-1で、276頁。目次は第一巻、第二巻、編者より読者へ、解説、注の順で、巻末に解説と注がつく。
大宮勘一郎訳作品社、2023年
Amazonで探す四六判上製の単行本で、ゲーテの「タウリスのイフィゲーニエ」もあわせて収める。書名ではウェルテルをヴェルターと表記する。大宮が編者を務めた集英社文庫の「ポケットマスターピース02 ゲーテ」(2015年)にも、新訳の「若きヴェルターの悩み」が入っている。
酒寄進一訳光文社・光文社古典新訳文庫、2024年
Amazonで探すここに挙げた中でいちばん新しい訳。版元は、若者にウェルテルブームを起こした初版からの翻訳だと紹介している。ゲーテは1774年に初版を出し、1787年に改訂しているので、改訂前の形で読めることになる。
さらに深く
【内容のあらまし】
冒頭で編者が、哀れなウェルテルについて見つけられたものはすべて集めたと告げる。第1部は1771年5月4日付の、遠く離れてきてうれしいという一通で始まる。
町はずれの泉に通うウェルテルは、水くみの娘たちを見て、族長たちが泉で妻を求めた昔を思う。村ワールハイムでは、教会前の菩提樹の下でコーヒーを飲みながらホメロスを読む。6月16日の手紙は、舞踏会へ向かう途中、ロッテを迎えに寄った家の場面だ。白い服に淡紅色のリボンをつけた彼女が、弟妹たちに黒パンを切り分けていた。踊りのさなか、ロッテはアルベルトとほぼ婚約していると打ち明ける。雷雨で音楽がやんだあと、窓辺で涙ぐんだロッテが詩人クロプシュトックの名を口にする。
7月30日、アルベルトが戻る。8月12日の手紙が語る前日の場面では、旅に借りたいとアルベルトのピストルを手にしたウェルテルが、弾の入っていない銃口を額に当てる。自殺を愚かと言い切るアルベルトに、ウェルテルは、命を絶った人を臆病者と呼ぶのは、悪性の熱病で死んだ人をそう呼ぶようなものだと言い返し、分かり合えないまま別れる。誕生日の朝にはアルベルトから、出会いの日にロッテがつけていたリボンと小型のホメロスが届く。第1部は、翌朝の出発を明かさず、月夜の庭でロッテとアルベルトに別れの言葉を告げた9月10日の夜で終わる。
第2部のウェルテルは公使のもとで働くが、文書の言葉にまで手直しを求める上司にいら立つ。2月、ロッテとアルベルトの結婚を知る。3月、伯爵の家で食事をした晩、貴族たちの集まりに居合わせ、同席を不満に思われていると伯爵に告げられて座を去り、やがて職を辞してロッテの近くへ戻り、思い出のくるみの木が切り倒されたと憤る。秋の手紙には、ホメロスに代わってオシアンが心を占めたとある。11月末の水辺では、恋人に贈る花を探す男に出会う。母親によれば、男がいちばん幸せだったと言うのは、正気を失っていたころのことだった。
終盤は「編者より読者へ」となり、編者の語りと遺された手紙が交互に進む。村の作男が恋敵を殺し、ウェルテルは弁護するが、ロッテの父もアルベルトも耳を貸さない。ロッテはクリスマスイブまで来ないでほしいと頼む。それでも訪ねたウェルテルは、頼まれて自分が訳したオシアンの歌を朗読し、我を忘れて口づけする。ロッテは隣室に閉じこもる。翌日、旅に使うと言ってピストルを借り、ロッテの手から渡されたと聞いて喜ぶ。真夜中の銃声のあと、机にはレッシングの戯曲「エミーリア・ガロッティ」が開かれていた。ウェルテルは正午に息を引き取り、夜の埋葬では職人たちが遺体を運び、聖職者は一人も付き添わなかった。
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