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代表的日本人

だいひょうてきにほんじん

内村鑑三·近代

西洋向けに日本の精神的伝統を紹介した人物評伝集

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哲学日本

この著作について

内村鑑三が1894年に英文で公刊し(原題 Japan and the Japanese、後に Representative Men of Japan と改題)、日本の精神的伝統を西洋の読者に紹介した短い人物評伝集。岡倉天心茶の本新渡戸稲造《にとべいなぞう》の武士道と並ぶ「三大英文著作」の一つ。

【内容】

内村は日本の代表的人物として五人を取り上げる。上杉鷹山(藩政改革者)、二宮尊徳(農政実践家)、中江藤樹《なかえとうじゅ》(陽明学者)、日蓮《にちれん》(仏教者)、西郷隆盛(政治家)である。それぞれの生涯と業績を簡潔に描き、そこに貫かれる誠実、節度、民衆への愛、超越への信仰といった日本的徳性を浮かび上がらせる。内村自身はキリスト者であったが、本書は日本の伝統のなかにキリスト教的な人間像と響き合うものを見出そうとする独特のまなざしで書かれている。

【影響と意義】

日本が近代化を急ぐなかで、自らの精神的遺産を他言語で語り直した早い試みとして、日本文化論・比較思想史の重要文献となった。現代でも自己紹介の一冊として英語圏で読み継がれている。

【なぜ今読むか】

日本の誇るべき人物とは誰か、という問いに、英文で答えた明治の思想家の覚悟と選択眼が凝縮されている。グローバル化の時代に自分のルーツを語る作法を考えるための軽やかな古典。

さらに深く

【内容のあらまし】

本書は短い緒言と五つの伝記章からなる。内村は緒言で、日本という国を西洋に紹介する書物がすでに何冊か出ているが、人物に焦点を当てたものは少ないと述べる。彼は政治家・実務家・思想家・宗教家からそれぞれ代表的な五人を選び、その生涯と仕事を簡潔に描くと宣言する。読者として念頭に置かれているのは、日清戦争の年に日本という新興国に好奇のまなざしを向ける欧米のキリスト者である。

第一章は西郷隆盛である。内村は薩摩の下級武士の子として生まれた西郷の少年期、奄美大島での流謫の歳月、明治維新における江戸無血開城の交渉、新政府での要職、そして征韓論をめぐる下野と西南戦争の悲劇までを跡づける。誠実、無私、簡素、敗北のなかでなお揺るがない大義への忠誠という像が描かれる。第二章は上杉鷹山である。十代で米沢藩主の養子となった彼が、財政破綻寸前の藩を質素倹約と殖産興業で立て直し、藩民の信頼を得ていく姿が描かれる。

第三章は二宮尊徳である。父母を早くに失い、伯父のもとで奉公しながら独学した青年期、桜町領の復興事業を任されて荒れ地を肥沃な田に変えていく実践、報徳思想として知られる「分度」と「推譲」の倫理が紹介される。第四章は中江藤樹である。近江聖人と呼ばれた陽明学者で、母への孝養のために脱藩し、郷里で塾を開いて庶民にまで学問を広めた人物として描かれる。

第五章は日蓮である。法華経を唯一の真理として掲げ、鎌倉幕府への諫言、蒙古襲来の予言、佐渡流罪、晩年の身延入山までが、内村特有の力強い筆致で描かれる。日蓮の不屈の信仰は、内村自身の無教会キリスト教の理想と響き合っている。終章で内村は、彼ら五人に共通する徳として、誠実、自己抑制、民衆への愛、超越者への帰依を挙げる。日本人の精神的伝統のなかにキリスト教的な人間像と通い合うものを見いだそうとした、明治のキリスト者の独自のまなざしが本書を貫いている。

著者

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