『心理学的類型』
しんりがくてき るいけい
ユング·現代
ユングの性格類型論
この著作について
ユングがフロイトとの決別を経てたどり着いた自らの心理学を、哲学史・宗教史のパノラマのなかで提示した大著。
【内容】
本書の前半は壮大な類型の考古学である。ユングは古代のグノーシスや中世神学の論争、シラーとニーチェの対立、東西の宗教、文学の登場人物にまで遡り、人類が繰り返し「外に向かう人」と「内に向かう人」を軸に世界を捉えてきたことを示す。その上で、心のエネルギーが外界に向かう外向と内面に向かう内向という基本態度と、思考・感情・感覚・直観という四つの機能を組み合わせ、八つの性格類型を導出する。終盤には個性化の過程の予告と、自我を超えた「自己」の概念が素描される。
【影響と意義】
二十世紀の深層心理学の基本文献となり、マイヤーズ母娘によってMBTIの源泉となったほか、アート・宗教学・文化人類学にも広く取り込まれた。日本ではユング派分析家・河合隼雄(かわいはやお)を通じて心理療法や教育の語彙に深く根を下ろしている。
【なぜ今読むか】
「自分は何タイプか」の診断文化は広く普及したが、その背後には西洋思想史の巨大な遺産がある。本書を読むと、タイプ論を単なるレッテル貼りではなく、自分と他者の違いを尊ぶための対話の道具として使い直せる。
さらに深く
【内容のあらまし】
本書は六百ページを超える大著で、半分以上が哲学史と宗教史の渉猟に費やされている。冒頭でユングは、人類はあらゆる時代に、世界を二つの基本姿勢に分けて考えてきたと宣言する。続く各章では、その対立がどんな衣装をまとって現れてきたかが、丹念に検討されていく。古代ではグノーシス派とユダヤ・キリスト教正統との対立、初期キリスト教ではテルトゥリアヌスとオリゲネスの気質の差、中世スコラでは普遍論争の唯名論と実在論、宗教改革ではルターとエラスムスの感受性の違いが順に論じられる。
中盤、シラーの美的教育論やニーチェのアポロン的・ディオニュソス的の対比が紹介される。ユングはニーチェ自身を、抑圧された外向的な側面が後年に噴出した内向直観タイプの典型として読む。さらに東洋思想に飛び、インドのサーンキヤ哲学、仏教の悟りの諸類型、道教の陰陽までが視野に入れられる。神話・文学の主題までも例として動員され、読者は気質をめぐる人類の長い対話のなかに自分を置くことになる。
本書の核となる類型論は、後半に体系的に提示される。心のエネルギーが外界の対象に向かう「外向」と、内面の主観的世界に向かう「内向」、この二つの基本態度が出発点である。次に四つの基本機能が示される。論理を組み立てる「思考」、好き嫌いを定める「感情」、五感の事実をとらえる「感覚」、可能性を直観する「直観」である。態度と機能を組み合わせて八つの類型が導かれる。たとえば外向思考型は事実と論理に基づく秩序を作るのが得意で、内向感情型は静かに深い情緒を内に蓄える。
各類型の章は、その類型が健全に発達した姿だけでなく、影に追いやられた劣等機能がどんな問題を起こすかも丹念に描く。外向思考型は内向感情の貧困に苦しみ、内向直観型は感覚的な現実から浮き上がりやすい。最終章では、自我のレベルを超えた中心としての「自己」が予告され、各人が自分の優勢機能だけでなく、影に追いやってきた機能と和解していく「個性化」の道筋が素描される。MBTIや日常的な性格診断の遠い源流に、これだけ重い思想史の遺産があることを実感できる本である。