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時

『時間は存在しない』

じかんはそんざいしない

カルロ・ロヴェッリ·現代

ループ量子重力理論の物理学者による時間の実在を問い直す現代の名著

哲学科学

この著作について

イタリアの理論物理学者カルロ・ロヴェッリ(1956〜)が2017年に刊行した『L'ordine del tempo』の邦訳。ループ量子重力理論の旗手による一般向け時間論として世界的ベストセラーとなった。

【内容】

ロヴェッリは「時間は実在しない」を挑発的なテーゼとして掲げ、それを物理学の現代的成果から段階的に基礎づける。熱力学第二法則とエントロピーの非対称性、相対性理論による絶対時間の解体、ループ量子重力理論における連続的時間の消失といった現代物理学の知見を、詩的な散文で読者に提示する。後半では「時間は存在しなくとも、私たちはなぜ時間を生きているのか」という問いに対し、人間の脳が時間を構成する仕方、記憶と期待の役割、死と意味について哲学的・文学的に語る。

【影響と意義】

本書はロヴェッリの『すごい物理学講義』『世界は「関係」でできている』とともに、二十一世紀の物理学と哲学を架橋する一般書の代表として位置づけられる。物理学者の書いた時間論として、哲学者ベルクソンの『持続と同時性』からほぼ百年後の応答とも読める。

【なぜ今読むか】

科学の最新成果を哲学的言語で受け止め直すことの可能性を、最良の形で示してくれる現代の必読書である。

さらに深く

【内容のあらまし】

冒頭でロヴェッリは手を止め、何も考えずに、時が過ぎていくのに耳を澄ます。序章によれば、本は3部に分かれ、第一部では、現代物理学が時間について理解したことをたどるうちに、時間が手のひらの雪片のように指のあいだで溶けて消えていく。第二部は、時間の痕跡がほとんど残らない、風の吹きすさぶ空っぽの風景を描く。第三部は、その時間のない世界から私たちの慣れ親しんだ時間がどう生まれるのかを探る。著者によれば、時間の謎は宇宙よりも私たち自身にかかわり、最初にして最大の推理小説であるソポクレスの悲劇のように、探偵自身が犯人なのかもしれない。各章の冒頭にはホラティウスの詩句が掲げられている。

第一章は、山の上では海辺より時間が速く進むという事実から始める。第二章では、ボールは跳ね返って上へ戻れるが熱はそうはいかない、という熱の性質が、過去と未来を区別するただ一つの基本法則として現れ、話はボルツマンのエントロピーへ進む。第三章では、宇宙全体にくっきりした「今」があるという考えは錯覚で、私たちの現在は身のまわりを包む泡のようなものだとされる。第四章は、時間を変化の尺度としたアリストテレスと、物やその変化と無関係に流れる真の時間を立てたニュートンを対比し、アインシュタインが両者をともに正しいと見抜いたことを示す。第五章によれば、時間には最小の間隔があり、それより短いところでは時間という考えそのものが成り立たない。

第二部の要は、世界は物ではなく出来事でできているという主張だ。石なら明日どこにあるかを問えるが、キスが明日どこにあるかを問うのは意味がない。世界は石ではなくキスの網でできている。出来事は英国人のように行儀よく並ばず、イタリア人のように押し合う。著者は、現在だけが実在するという考えも、過去も未来も現在と同じく実在するという考えも退ける。1967年にホイーラーとドウィットが時間の変数を含まない量子重力の方程式を書いたいきさつも語られる。

第三部の第九章「時とは無知なり」は、物理学の時間は、私たちが世界の微視的な細部を知らないことの表れだと論じる。空が回って見えるのは私たちのほうが回っているからであるように、宇宙のはじめのエントロピーの低さ、ひいては時間の矢も、宇宙そのものより私たちの側に由来するのかもしれない。私たちの現在は過去の痕跡でひしめき、私たちは自分自身の歴史であり物語だという。最後の章「眠りの姉」で著者は、死をよく働いたあとの休息のように思うと書く。本は、アウグスティヌスが見てとったように、歌は時間の意識であり時間そのものだという省察で閉じられる。

この著作で扱う問い

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