人
『人生論』
じんせいろん
トルストイ·近代
トルストイの思想的著作
哲学
この著作について
『懺悔』で描いた精神的危機を経たトルストイが、人生の意味をめぐる問いに正面から答えるべく書き上げた宗教的倫理の書。
【内容】
冒頭で著者は「人生とは何か」という問いに、現代の科学や哲学、形式化された教会神学のいずれも満足に答えていないと断じる。続いて本書は、人間の生には二つの層があると論じる。一つは他人と競い合い欲望を充たそうとする動物的・個人的な生であり、これは必ず死と苦しみの意識に突き当たって挫折する。もう一つは、自己中心性を越えて他者と神を愛する「理性的意識」の生であり、愛のなかに入ることによって人は「死ではなく生」として時間を生き直せるとされる。結婚、仕事、死の恐怖、富や名誉などの具体例を通して、愛を中心に据える倫理がやさしい口調で説かれる。
【影響と意義】
本書を含む後期トルストイの思想は、ロシア正教会から破門される原因ともなった一方、ガンディー、ロマン・ロラン、賀川豊彦《かがわとよひこ》ら世界の非暴力主義者・社会改革者に強い影響を与えた。十九世紀末から二十世紀初頭の日本でも、内村鑑三・武者小路実篤《むしゃのこうじさねあつ》らに受容されている。
【なぜ今読むか】
成功や自己実現の語彙に囲まれて生きると、「自分の幸福の外側にある意味」を考える機会は減っていく。愛と奉仕を人生の軸に据え直す本書の語り口は、素朴に見えてかえって現代の感覚を揺さぶる静かな力を持つ。
著者
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