校
『校訂版新約聖書』
こうていばんしんやくせいしょ
デジデリウス・エラスムス·近代
近代聖書学の出発点となった校訂ギリシア語新約
哲学宗教
この著作について
1516年バーゼルのフローベン社から刊行された、エラスムスによるギリシア語新約聖書の校訂版。正式タイトルは Novum Instrumentum omne で、第二版以降は Novum Testamentum と改題された。近代聖書学と宗教改革の双方の出発点に立つ古典である。
【内容】
エラスムスは複数のギリシア語写本を比較校訂したテキストに、自らのラテン語新訳と詳細な注釈を併記した。当時西欧の標準であったヒエロニムスのウルガタ訳には誤訳と思われる箇所が散見され、本書はそれを原典批評の立場から修正する。マタイ福音書の冒頭からヨハネ黙示録まで、原語と新訳を並置する形式は、聖書を聖職者の独占から学的吟味の対象へと開放する効果をもった。注釈には人文主義的な歴史的・文献学的議論が込められ、教義神学からは独立した読みが可能となる。
【影響と意義】
ウルガタ訳の権威を相対化したことで激しい論争を呼んだが、ルターのドイツ語訳・ティンダルの英訳・ジュネーヴ聖書はいずれもエラスムスの校訂本を底本とした。プロテスタント諸国における自国語訳聖書の系譜は本書なしには成立しなかった。日本語の独立邦訳は刊行されておらず、原典・複製の形で参照されている。
【なぜ今読むか】
権威ある翻訳の背後に潜む選択と解釈を露わにする本書の方法は、現代の翻訳論・批評理論にも直結する。原典に立ち返るという人文主義の精神を体現した一冊である。
著者
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