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ニ

『ニュー・アトランティス』

近代

科学技術の共同体を描いた近世ユートピア小説

哲学科学

この著作について

フランシス・ベーコンが晩年に執筆し、彼の死後1627年に遺稿として公刊された未完のユートピア小説。『ノヴム・オルガヌム』などで構想された科学的方法論を、社会制度の形で描き出した作品。

【内容】

南洋を漂流したヨーロッパ人船員の一団が、キリスト教を受容した謎の島「ベンサレム国」に漂着する。島の中心には「ソロモンの家」と呼ばれる大規模な研究機関が置かれ、そこでは天文・気象・鉱物・動物・植物・医学・機械にわたる組織的な実験と観察が行われている。研究者は専門分野ごとに役割分担され、観察者、編纂者、解釈者、実験者などが協働して自然の秘密を解明し、その成果を社会に還元する。

【影響と意義】

近代科学の制度化を先取りした構想で、17世紀後半の王立協会(ロイヤル・ソサエティ)の設立や、以後の科学アカデミー、研究機関の組織モデルに大きな影響を与えた。科学技術によって社会を改良するという近代特有の信念の、最も早い記念碑的作品である。

【なぜ今読むか】

科学と社会の望ましい関係をめぐる議論は、AI、バイオテクノロジー、気候工学などの時代にますます重要になっている。科学者はどのような共同体のなかに置かれるべきかを問うための古典として読みたい。

どの訳で読むか

手に取りやすい文庫で、助手ローリーの「ベーコン伝」もあわせて読むなら岩波文庫の川西訳が目安になる。『学問の進歩』や『ノヴム・オルガヌム』と1冊で読みたいなら、河出書房新社の「世界の大思想」オンデマンド版に入った中橋訳がある。古い訳には中野好夫訳(思索社、1948年)や、中央公論社「世界の名著」のベーコンの巻に入った成田成寿訳もあり、図書館で読める。

  • 川西進訳岩波書店・岩波文庫、2003年

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    岩波文庫の青617-4で、125ページ。版元の紹介文はプラトンやモアの流れを汲むユートピア物語と位置づけ、島を「ベンサレムの国」、学院を「サロモンの家」と呼んで、その実験・応用施設の記述は現代への警世の書としても読めると紹介している。ベーコンの忠実な助手だったローリーによる「ベーコン伝」が付く。

  • 中橋一夫訳河出書房新社・「世界の大思想」ワイド版2-4、2005年(1966年刊の複製)

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    1966年に出た「世界の大思想」第6巻(ベーコンの巻)の複製で、版元はオンデマンド出版として扱っている。服部英次郎・多田英次訳の『学問の進歩』、服部英次郎訳の『ノヴム・オルガヌム』と同じ1冊に収められ、題は「ニュー・アトランチス」と表記される。山崎正一の解説とベーコン年表が付く。

さらに深く

【内容のあらまし】

ペルーから中国と日本へ向かう船が風に流されて食糧を失い、死を覚悟して祈るところから、船乗りの語りは始まる。港で渡された巻物には、ヘブライ語、ギリシア語、ラテン語、スペイン語で、上陸するな、さらに猶予を与えられない限り16日以内に去れ、ただし入り用の物は書いて出せ、とある。海賊ではなく、この40日に正当不当を問わず血を流していないと誓った一行51人は、外国人の家に迎えられる。礼金は二度払いはごめんだと断られ、17人の病人にはオレンジと丸薬が届けられて快方に向かう。

外国人の家の長で司祭でもある人物が、二日にわたって島ベンサレムの来歴を語る。初日は、光の柱と十字架のあとに杉の箱が浮かび、聖書と使徒バルトロマイの手紙が出てきた話である。二日目は、三千年前は航海が今より盛んで、アメリカにあたる大アトランティスも洪水で滅びたという話から、約1900年前の王ソラモナの定めへ進む。王は外国人の入国を制限しつつ、漂着者が去るも残るも自由とし、島民の外国渡航を禁じた。例外は、学院ソロモンの家(別名六日間の御業の学院)が12年ごとに2隻の船で会員を3人ずつ各国へ送ることで、会員は次の船が来るまで滞在し、学問や技術や書物を集める。交易するのは金銀でなく、神が最初に造った光だけだという。

その後、仲間二人は、3歳を超える子孫30人が揃って生きている男が国費で開く家族の祭りに招かれ、語り手はユダヤ人の商人ヨアビンから結婚の掟を聞く。一夫多妻はなく、初めて会ってから1か月は婚約しない。ヨーロッパのある架空の国の本にある、婚約前に裸を見せ合う習わしは好まれず、代わりに双方の友人が一人ずつ入浴を見る池がある。

やがてソロモンの家の長老の一人が12年ぶりに町を訪れ、仲間に選ばれた語り手が一人で話を聞く。長老は学院の目的、設備、役職、儀式の順に語る。目的は、事物の原因と隠れた動きを知り、「人間の帝国の境界を広げて、可能なことをすべて実現する」ことにある。深さ600尋の洞窟、高さ半マイルの塔、接ぎ木で実を大きく甘くする果樹園、解剖と試験の鳥獣の囲い地、光学の館、管で音を送る音響の館、空を飛ぶ試みや潜水船のある機械の館が並ぶ。感覚を欺く館もあるが、自然の産物を飾り立てて見せることは固く禁じられている。外国から書物や実験の型を持ち帰る12人の光の商人から、実験を公理へ高める3人の自然の解釈者までが仕事を分け、どの発見を公表するかを協議して、国家に伏せるものもある。発明者の像の並ぶ回廊にはコロンブスもいる。語り終えた長老は公刊を許す。原稿はそこで途切れ、残りは仕上げられなかったと注記されている。

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