一
『一遍《いっぺん》聖絵』
いっぺんひじりえ
聖戒·中世
遊行の聖・一遍の生涯を絵巻物として描いた鎌倉仏教美術の傑作
宗教日本
この著作について
時宗の開祖・一遍の異母弟である聖戒が、一遍没後10年の1299年に完成させた全12巻の絵巻物。正式名称は『一遍上人絵伝』。一遍上人の遊行生活と踊り念仏の全国伝道を、四季の山水風景と庶民の姿のなかに描き込んだ、鎌倉仏教美術の最高峰の一つ。
【内容】
伊予の貴族家に生まれた一遍が、苦悩のすえ出家し、16年にわたり日本各地を遊行しながら「南無阿弥陀仏 決定往生六十万人」と書かれた念仏札を配り、踊り念仏によって貴賤を超えた救いを伝えた生涯を、詞書と美しい絵で追う。信濃・伊豆・奥州・九州まで及ぶ諸国廻りの記録は、中世日本の景観・風俗・信仰の一次史料としても比類ない価値を持つ。
【影響と意義】
宗祖の生涯を体系的に絵巻化した鎌倉仏教絵伝群の代表例として、同時代の『親鸞《しんらん》聖人絵伝』『法然《ほうねん》上人絵伝』と並び日本美術史上の至宝とされる。時宗教団の根本聖典でもある。国宝指定。神奈川県立歴史博物館・東京国立博物館などに各巻が分蔵されている。
【なぜ今読むか】
中世の身体を伴う宗教実践を、視覚と物語で直接に理解できる稀有なテクスト。遊行・踊り念仏・札配りという具体的所作の連なりから、鎌倉時代の民衆仏教が立ち上がる現場を追体験できる。