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人間の条件

にんげんの じょうけん

アーレント·現代

「労働・仕事・活動」で人間の営みを分析した政治哲学の名著

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政治

この著作について

ハンナ・アーレントが1958年に公刊した、人間の活動的生活を三つに分類して分析する政治哲学の主著。

【内容】

人間の「活動的生」を三つに区別することが出発点となる。「労働(レイバー)」は生命維持のために繰り返される反復的活動、「仕事(ワーク)」は道具や建築など耐久的な人工物の制作、「活動(アクション)」は他者とのあいだで言葉と行いを交わす政治的営みである。古代ギリシアのポリスでは「活動」が最高の営みとされたが、近代以降は「労働」が公的領域にまで浸透し、仕事と活動が押しのけられて、公共的空間が衰退したと論じられる。科学技術の進歩と市場化によって、人が言葉を交わす場そのものが痩せ細っていくという診断が全体を貫く。

【影響と意義】

「公共性」「公共圏」の議論の基本文献であり、ハーバーマスの公共圏論、近年の熟議民主主義論にも影響を与えた。働き方、労働価値、公共参加を考えるうえで欠かせない視座を提供している。

【なぜ今読むか】

「なぜ忙しく働くのに充実感がないのか」「なぜ政治は遠く感じられるのか」という現代人の感覚に、60年以上前のこの本が鋭い答えを用意している。労働と活動の区別は、自分の日常を見直すきっかけになる。

さらに深く

【内容のあらまし】

アーレントは序論で、スプートニクの打ち上げと自動化の進展という二つのニュースから本書を起こす。人類は地球から離れ、労働から解放されようとしている。だがこの祝うべき出来事のなかに、彼女は深い問題を見出す。人間の活動的生活がどう構造化されてきたかを問い直さなければ、私たちは自分が何を失おうとしているかすら分からない。

第一の柱は労働である。労働とは、生命そのものを維持するために繰り返される反復的活動である。食べ、眠り、子を産み、また食べる。労働の産物は消費されることで消え、永続するものを残さない。古代ギリシアでは、この生命の必然に縛られた営みは奴隷と女性に押しつけられ、自由市民が顔を出す場ではなかった。

第二の柱は仕事である。職人や芸術家が道具や建築や芸術作品を作り出すように、仕事は世界に耐久的な人工物を加える。机や橋や本は使い捨てられず、世代を超えて私たちが共有する世界を構成する。仕事には目的、手段、製作と消費の明確な区別があり、出来上がりが評価可能である。

第三の柱は活動である。活動は他者とのあいだで言葉と行為を交わすこと、つまり政治的営みである。誰かが集まる場で何かを始めることで、人は自分が何者かをはじめて世界に現す。活動は予測不能で、結果は本人の手に余る。許しと約束だけが、この不可逆性と予測不能性に応える人間的な能力として位置づけられる。古代のポリスはこの活動の場として神話化される。

中盤で、近代以降に何が起こったかが分析される。私的領域と公的領域の中間に「社会的なもの」が肥大化し、本来は家政の領域だった経済が公共空間を埋めていく。労働するアニマル・ラボランスが活動する人間を押しのけ、生命の維持と消費が公共の主題になる。労働価値説、行動科学、統計の発達は、人間を予測可能な平均的個体として扱う風土を準備した。

後半で近代科学と技術が取り上げられる。ガリレオ以降、人間は地球から離れた抽象的視点から自然を理解し、操作するようになった。これは「世界からの疎外」を生み、私たちは自分の作った道具のなかで、自分自身を理解できなくなる方向に進んでいる。

結部でアーレントは、活動の場をいかに守るかという問いを残す。考えることそのものがすでに静かな抵抗だ、という示唆を残して本書は閉じる。

著者

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