翻
『翻訳語成立事情』
ほんやくごせいりつじじょう
柳父章·現代
明治の翻訳語が日本語に定着する過程を追う名著
哲学
この著作について
「社会」「個人」「自然」「権利」「自由」「恋愛」など、幕末から明治にかけて成立した翻訳語が、原語との微妙な意味のずれを抱えつつ日本語のなかに定着していく過程を追った名著である。岩波新書黄版189として1982年4月に刊行された。
【内容】
柳父章は10語あまりの翻訳語を選び、福澤諭吉、西周《にしあまね》、中村正直らがそれぞれの語を造ったとき何を訳し落としたかを検証する。たとえば「自然」はnatureの訳として採用されながら、もとの日本語にあった「おのずから然る」の語感を温存してしまい、概念の輪郭が二重化された。著者はこの現象を「カセット効果」と名づける。中身が定かでないまま小箱に詰められた語が、空虚な権威をまとって流通する事態を指す術語である。
【影響と意義】
本書は日本語論、翻訳論、思想史の交点に立つ古典として広く読まれ、丸山眞男《まるやままさお》「翻訳と日本の近代」などとともに翻訳文化論の基盤となった。学部生から専門家まで参照する標準文献である。
【なぜ今読むか】
横文字をカタカナで取り込む現代日本語の習慣は、明治の翻訳語と地続きの問題を抱えている。日々使う言葉の不安定さに気づくための入門として最適である。
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