『ガンディー自伝』
がんじーじでん
マハトマ・ガンディー·現代
ガンディーが自らの人生と思想形成を語った自伝
この著作について
インド独立運動の指導者モーハンダース・カラムチャンド・ガンディー(マハートマー・ガンディー)が、自らの生涯を「真理の実験」として振り返った自伝。
【内容】
本書は、カーティヤーワール地方ポルバンダルでの少年時代、厳格な母の下での宗教的体験、十代での結婚と父への思慕、ロンドンへの留学、弁護士としての失敗、南アフリカでの人種差別体験、そこからサティヤーグラハ(真理把持)運動の発見へと進む。菜食、禁欲(ブラフマチャルヤ)、手紡ぎ車(チャルカー)による経済的自立、アシュラム共同生活、断食、不可触民差別との闘いといった実践が、素朴かつ率直に語られる。政治運動の記録というより、ひとりの人間が真理に近づこうと試みる心の闘争日誌として書かれている点に特徴がある。
【影響と意義】
マーティン・ルーサー・キング、ネルソン・マンデラ、チェ・ゲバラ、日本の賀川豊彦らに繰り返し読まれ、二十世紀の抵抗運動と非暴力思想の古典的一次資料となった。トルストイとの往復書簡や、ラスキン、ソローへの共感も本書の随所に現れる。
【なぜ今読むか】
偉人伝の英雄像を自ら拒み、弱さ、失敗、葛藤を包み隠さず記す誠実さが胸を打つ。政治と精神性が不可分に結びついた思想家の肉声が、日常生活のなかで非暴力の作法を考えるきっかけを与えてくれる。
さらに深く
【内容のあらまし】
冒頭、ガンディーは自分が偉人伝を書こうとしているのではないと断る。これは「真理に向き合おうとした実験の記録」であり、失敗もそのまま記すと宣言する。物語はカーティヤーワール地方ポルバンダルでの幼年期から始まる。厳格な母プタリバーイの誓戒の習慣、十三歳で結婚した妻カストゥールバーへのぎこちない振る舞い、父の臨終の夜に妻のもとにいた自責の記憶。少年期の章はためらいや恥の記録に満ちている。
ロンドン留学の章では、菜食の誓いを守るために安食堂を探し歩いた苦労、神智学協会の集まりでバガヴァッド・ギーターを英訳で初めて読んだ衝撃が綴られる。弁護士資格を得て帰国した彼は、最初の法廷で言葉が出ずに敗訴し、職業人としての挫折を味わう。転機は南アフリカである。一等車の切符を持っていながらピーターマリッツバーグ駅で放り出された夜、彼は人種差別と闘うことを決める。
中盤は南アフリカでの二十年の記録となる。インド人労働者の権利のために嘆願書を書き、ボーア戦争では救護隊を組織し、トルストイ農場という共同生活実験を始める。塩税法に類する不当な登録法に対し、彼は「サティヤーグラハ」つまり真理把持と呼ぶ非暴力の抵抗を初めて組織する。ここでブラフマチャリヤ、すなわち禁欲の誓いを立てる場面、自分の身体や食事を厳格に管理する苦闘が率直に語られる。
帰国後の章では、インド各地のアシュラム、藍の強制栽培に苦しむチャンパランの農民の調査、糸紡ぎ車チャルカーを国民運動の象徴とした経緯、不可触民差別を「神の子」と呼び替える闘いが続く。塩の行進や独立達成の場面は本書の範囲外だが、自伝はその直前まで進む。最後の章で彼は、自分は道半ばであり、神の前にひれ伏す以外にないと書いて筆を置く。政治運動の英雄譚ではなく、ひとりの人間が真理に近づこうと試みて失敗を重ねた記録として読まれるべき書物である。
著者
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