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親

『親和力』

しんわりょく

近代

化学の親和力を人間関係に重ねたゲーテ晩年の結晶的長編

文学

この著作について

1809年刊。ゲーテ六十歳の長編小説で、化学の「親和力(Wahlverwandtschaft)」という概念を男女四人の関係に重ねて展開した実験的作品。

【内容】

領主エドゥアルトと妻シャルロッテの穏やかな結婚生活に、友人の大尉とシャルロッテの姪オッティーリエが合流する。新たな二組の結びつきが「化学反応」のように起こり、当初の結合が緩み、新しい親和性が不可避の力で進行する。当事者は理性と道徳で抗おうとするが、内面の流れと外的な運命が静かに二組を別の方向へ押し流し、ついにオッティーリエの自己放棄と死によって物語は閉じられる。

【影響と意義】

ベンヤミンは『ゲーテの親和力』(1921-22)でこの作品を論じ、神話的な運命と象徴的な救済を対比させた。以後、ブレヒト、トマス・マン、ハイデガー、アガンベンなど二十世紀の読み手を惹きつけ続け、近代小説における「運命」「結婚」「自然法則」の交点を問う古典となった。

【なぜ今読むか】

パートナーシップの選択が再び問い直される現代、「意志の奥で働く親和性」を静謐《せいひつ》に描いた本作は今も読者の心を揺らす。

どの訳で読むか

全編を文庫で読むなら講談社文芸文庫の柴田訳が目安になり、電子版もある。ゲーテのほかの小説とあわせて全集の1冊で読みたいなら、潮出版社の浜川訳がある。松井訳は第2部だけの訳なので、通して読みたい人には向かない。

  • 柴田翔訳講談社・講談社文芸文庫、1997年

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    文庫判474ページ。国立国会図書館の書誌によれば年譜と著作目録がつく。電子版もある。

  • 浜川祥枝訳潮出版社・ゲーテ全集 新装普及版 第6巻、2003年

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    小説を集めた巻で、B6判493ページ。神品芳夫訳の「若きヴェルターの悩み」、前田和美訳の「ノヴェレ」、石井不二雄訳の「ドイツ避難民閑談集」もあわせて収め、訳注と解説がつく。

  • 実吉捷郎訳岩波書店・岩波文庫、1956年

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    通し番号は赤406-8で、386頁。版元のサイトは著者名をゲエテと表記している。版元のサイトで品切れと表示されている(2026年10月時点)。

  • 松井尚興訳集英社・集英社文庫ヘリテージシリーズ「ポケットマスターピース02 ゲーテ」、2015年

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    第2部だけの訳で、全編ではない。大宮勘一郎訳の「若きヴェルターの悩み」、粂川麻里生訳の「ファウスト」第2部の抄訳と同じ1冊に収め、解説、作品解題、年譜などがつく。

さらに深く

【内容のあらまし】

第1部、第2部とも18章から成る。物語は、裕福な男爵エドゥアルトが苗圃で若木に接ぎ穂をして、4月の午後のいちばん良い時間を過ごしたところから始まる。まもなく登場するミットラーは、仲裁することも助けることもない家には長居しない男で、名前の意味を気にする人々は、ミットラー(仲介者)という名がこの風変わりな役目を選ばせたのだと言う。

第4章で、大尉は化学でいう親和力を説明する。石灰石を薄い硫酸に入れると、硫酸が石灰をつかんで石膏となり、気体の酸は逃げ出す。さらに、Bと固く結んだAと、同じようにDと結んだCの二組が出会うと相手を組み替えるのだと、記号を使って示す。シャルロッテは、そこに見えるのは選択ではなく、せいぜい自然の必然で、実は機会の問題にすぎないのではと返す。エドゥアルトは、シャルロッテをA、自分をB、大尉をC、オッティーリエをDに当てはめてみせ、シャルロッテはこの場で、姪のオッティーリエを呼ぶ決心を明かす。

礎石を据える祝いでは、石工が杯を飲み干して空へ投げ上げ、足場の上の一人が受け止める。杯にはEとOの文字が絡めて刻まれていた。ある夜、エドゥアルトは妻の寝室を訪ねるが、抱き合う二人の心には、それぞれオッティーリエと大尉が浮かんでいる。その翌日の夕方、オッティーリエが買って出た書類の写しは、終わりのほうがエドゥアルト自身の筆跡のようになっていた。「これは私の字だ」と叫んだ彼は、その場で彼女と抱き合う。同じ夕べ、大尉もシャルロッテに口づけをするが、彼女はそれで我に返る。第1部の終わり、妊娠を手紙で知らされたエドゥアルトは、領地をオッティーリエに遺す遺言を整え、再び始まった戦争へ向かう。

第2部には「オッティーリエの日記から」と題した断章が6度挟まれる。クリスマスには、若い建築家の願いで、オッティーリエが聖母の姿を演じる。生まれた子は顔立ちが大尉に、目がオッティーリエに似てくる。戦地から戻ったエドゥアルトは、離婚の申し入れを大尉に託し、湖のほとりでオッティーリエに会う。彼女は日が沈んだあと、子を抱いて小舟で湖を渡ろうとする。舟の場面は現在形で語られ、櫂は一方へ、子と本は他方へ、すべて水に落ち、引き上げた子はもう息をしていない。エドゥアルトに身を引くと決めたオッティーリエは沈黙を続けてほとんど飲み食いせず、エドゥアルトの誕生日の前夜に息絶える。エドゥアルトは愛用のEとOの杯が割れて似た杯にすり替えられていたと知り、やがて死んでいるのが見つかる。シャルロッテは彼をオッティーリエの隣に葬り、物語は二人がいつか共に目覚めるときを思い描く一文で閉じる。

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