『神曲』
しんきょく
ダンテ·中世
地獄・煉獄・天国を巡る中世文学の最高傑作
この著作について
フィレンツェを追放された詩人ダンテ・アリギエーリが14世紀初頭に書き上げた、中世ヨーロッパ文学の最高傑作。
【内容】
全100歌からなる大長編詩。地獄篇・煉獄篇・天国篇の三部構成で、各部33歌に導入1歌を加えた完璧な数理的対称をなす。聖金曜日の夜、暗い森に迷い込んだ詩人が古代ローマの詩人ウェルギリウスに導かれて地獄の九圏・煉獄の九環を抜け、地上楽園で亡き最愛の女性ベアトリーチェと再会し、彼女の導きで天国の九天を昇って神の光に到達するまでが描かれる。
【影響と意義】
ラテン語ではなく当時の口語であったトスカーナ語で書かれたことにより、現代イタリア語の基礎がここに築かれた。アリストテレス哲学・スコラ神学・古代文学・中世政治神学を壮大な物語に溶かし込んだ「中世の総合」として、ルネサンスへの扉を開き、以後の西洋文学の想像力を決定づけた。地獄・煉獄・天国というキリスト教的宇宙像も、本書の造形が原イメージとなって後世に広まった。
【なぜ今読むか】
パオロとフランチェスカの悲恋、餓死する伯爵、天国の光の階梯など、ひとつひとつの場面が宝石のように鮮烈で、哲学書のように思考を刺激する。「人生の道半ばにして暗い森に迷い込んだ」という冒頭の一節は、今も中年の危機の最良の描写であり続けている。
さらに深く
【内容のあらまし】
物語は1300年の聖木曜日の夜に始まる。35歳のダンテは「人生の道半ば」で暗い森に迷い込み、出口を求めて山を登ろうとするが、豹・獅子・牝狼の三匹の獣に道を阻まれる。絶望しかけたとき、古代ローマの詩人ウェルギリウスが現れ、別の道を行こうと誘う。亡き恋人ベアトリーチェが天上から差し向けた案内人だった。
地獄篇では、地球の中心に向かって漏斗状に開く九つの圏を下っていく。第二圏では情欲に流された者たちが暴風に吹かれ続ける。義兄ジャンチョットの妻フランチェスカが姦通の物語を語り終えたとき、ダンテは哀れさに気を失う。第六圏には燃える墓のなかに異端者が埋められ、ダンテの政敵ファリナータが胸を張って立ち上がる。下層に降りるほど罪は冷たくなり、最下層では裏切り者が氷に閉ざされ、その中央でルチフェロが三つの口でユダ・ブルートゥス・カシウスを噛み続けている。二人はルチフェロの体を伝って地球の反対側へ抜ける。
煉獄篇では、南半球の海に浮かぶ山を登る。傲慢・嫉妬・憤怒・怠惰・貪欲・暴食・色欲という七つの大罪を順に浄める七つの環があり、登るにつれてダンテの額に刻まれた七つのPの印が一つずつ消えていく。山頂の地上楽園で、ウェルギリウスは静かに姿を消し、入れ替わりにベアトリーチェが現れる。彼女はダンテのかつての浮気を厳しく叱責し、彼は涙を流して悔い改める。
天国篇は、月天から始まり恒星天・原動天を経て至高天へと九つの天を昇る旅となる。各天で殉教者・哲学者・神学者と問答を重ね、最後の白いバラの形をした至高天で、ダンテは三位一体の光を一瞬だけ直観する。言葉では捉えられないその経験で詩は閉じられる。

