物
『物の本質について』
もののほんしつについて
ルクレティウス·古代
エピクロス哲学を叙事詩で表現したローマ哲学の傑作
哲学
この著作について
共和政末期ローマの詩人ルクレティウスが、エピクロスの自然哲学を全編ラテン語の六歩格詩で歌い上げた、古代唯物論の最大の記念碑。
【内容】
全六巻からなる壮大な構成は次の通りである。第一・二巻では、万物が分割不可能な「種子」(のちの原子)と虚空からなり、落下するあいだに微細な「逸れ(クリナメン)」が生じて渦を作ると説かれる。第三巻では魂も原子の集合であり死と共に解けるため、「死は我々にとって何ものでもない」という有名な結論が展開される。第四巻は感覚と知覚、恋愛の倒錯、第五巻は宇宙と生物の発生と文明の進化、第六巻は雷・地震・疫病などの自然現象の自然的説明に充てられる。神々は存在しても人間界に介入せず、恐怖から自由になることで平穏(アタラクシア)が訪れるという教えが一貫する。
【影響と意義】
中世には危険視されてほぼ忘却されたが、一四一七年にポッジョ・ブラッチョリーニが修道院の書庫で写本を再発見したことをきっかけに、ルネサンスの原子論復興、近代の自然哲学、モンテーニュ、ホッブズ、ガッサンディ、ダーウィンへと続く唯物論的世界観の系譜を決定づけた。
【なぜ今読むか】
科学的世界観と死への恐怖、宗教的慰めの欠如といった現代人の主題は、すでに二千年前に詩の言葉で深く扱われていた。迷信と不安から自由になるための古代の処方箋として、いまなお胸に響く読書になる。