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『チンパンジーの政治学』
ちんぱんじーのせいじがく
フランス・ドゥ・ヴァール·現代
マキャヴェッリ的駆け引きを霊長類社会に観察した動物行動学の古典
科学政治
この著作について
フランス・ドゥ・ヴァール(Frans de Waal)が1982年に刊行した霊長類学の古典(原題『Chimpanzee Politics: Power and Sex among Apes』)。アーネム動物園の大規模チンパンジー群を六年間観察した記録に基づく本書は、政治と権力をめぐる哲学的問いを動物行動学に持ち込んだ画期的著作である。
【内容】
本書はアーネム動物園の中心的な雄三頭、イエルン、ルイト、ニッキーの権力闘争を軸に、連合形成・裏切り・和解・同盟の切り替えといったマキャヴェッリ的駆け引きがチンパンジー社会で日々繰り広げられる様を克明に描く。支配的地位は単なる身体的強さではなく、政治的技術と社会的知性によって獲得・維持される。雌たちはしばしば雄の権力闘争の調停者として決定的役割を果たし、和解の儀礼は集団全体の安定に不可欠な装置として機能する。人間社会の政治現象と思われてきた多くの行動が、実は霊長類に共通する進化的基盤をもつことが具体的に示される。
【影響と意義】
本書はその後のドゥ・ヴァールの『利己的なサルと利他的なサル』『共感の時代へ』『道徳性の起源』へと連なる「モラルは動物のものでもある」という大きな主張の出発点となった。進化倫理学、神経倫理学、霊長類考古学、さらに組織行動論・リーダーシップ論の教材としても広く用いられてきた。ニュート・ギングリッチが米連邦議員に推薦書として配ったエピソードでも知られる。
【なぜ今読むか】
政治が剥き出しの感情のぶつかり合いに見える時代に、権力と道徳の進化的根源を落ち着いて見直すための、ユーモラスな最良の入口である。