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資本主義・社会主義・民主主義

しほんしゅぎ しゃかいしゅぎ みんしゅしゅぎ

ヨーゼフ・シュンペーター·近代

資本主義の内的崩壊過程と社会主義への移行、民主主義のエリート論的解釈を論じた、経済学と政治哲学にまたがる古典的大著

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哲学

この著作について

オーストリア=ハンガリー出身の経済学者ヨーゼフ・シュンペーターが、亡命先のアメリカで第二次大戦中に刊行した、経済と政治を貫く大著。

【内容】

本書は四部構成である。第一部では、マルクスの理論を経済学者として冷静に再評価する。第二部は資本主義論の中核で、企業家によるイノベーションが旧来の秩序を破壊しながら新しい可能性を切り開く「創造的破壊」の動態が描かれる。そのうえでシュンペーターは、資本主義がその成功ゆえに、企業家精神の官僚化、知識人の反資本主義的心性、中産階級の変質を通じて内側から衰退すると予見する。第三部では、社会主義経済の経済計算可能性が議論され、理論的には成立しうると論じられる。第四部は有名な民主主義論で、「民主主義とは政治家集団が票をめぐって競争する制度的装置である」というエリート競争的定義が提示される。

【影響と意義】

「創造的破壊」はイノベーション論の中核概念として経済学とビジネスの語彙に定着し、シュンペーター学派、進化経済学、経営戦略論の基礎となっている。民主主義論はダール、サルトーリ、ラーワに至る政治学の主要な議論の出発点である。

【なぜ今読むか】

GAFAやAIスタートアップによる産業構造の再編成は、まさに現代の「創造的破壊」である。同時に、民主主義の手続き的側面を直視することは、ポピュリズム時代の政治を冷静に考えるための足場となる。

さらに深く

【内容のあらまし】

本書はシュンペーターが第二次大戦中、亡命先のハーバードで構想を深め、刊行後に版を重ねるなかで増補された書物である。冒頭でシュンペーター自身が、これは予言の書ではなく診断の書だと断る。資本主義は果たして生き延びるか、という問いを彼は立て、答えはおそらく否だと淡々と書く。

第一部はマルクス論にあてられる。シュンペーターはマルクスを「予言者」「社会学者」「経済学者」「教師」の四つの顔から論じ、その独創性に敬意を払いながら、労働価値説の難点や恐慌論の予測の不完全さを冷静に指摘する。社会主義への移行を必然とした筋書きには同意しないが、資本主義の歴史的有限性という問題設定そのものは引き継ぐ。

第二部が本書の中核である。シュンペーターは経済の本質を均衡ではなく、絶え間ない構造変化に見る。新しい商品、新しい生産方法、新しい市場、新しい組織が、起業家の手によって生み出され、古い秩序を破壊しながら新しい秩序を打ち立てる。このダイナミックな運動を彼は「創造的破壊」と呼ぶ。続く章では、しかし資本主義は自身の成功ゆえに衰退する、という逆説が提示される。大企業のなかで革新が官僚的なルーチンに変質する。ブルジョワジー自身が伝統的価値を解体する。知識人階級が反資本主義的な気分を社会に拡散する。中産階級は変質し、革新の担い手であった起業家は希少種となる。これらが内側から資本主義を弱らせる、というのが診断である。

第三部は社会主義論である。社会主義経済は理論的には経済計算が可能だ、と彼は認める。価格が中央計画当局によって設定される世界でも、合理的な資源配分の論理は維持できる。問題はむしろ動機と政治のほうにある、と続けられる。

第四部が有名な民主主義論である。古典的な民主主義観、すなわち国民の意志が共通善を決定するという理想を、シュンペーターは現実離れした神話として退ける。代わりに彼は、民主主義を「政治家集団が票を求めて競争する制度的方法」と再定義する。リーダーが出現し、有権者がそれを選択する手続きこそが民主主義の本質であり、政治はそれ以上のものでも以下のものでもない、と冷徹に論じられる。本書は経済と政治を貫く、苦い知恵に満ちた書物である。

著者

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