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自由と尊厳を超えて

じゆうとそんげんをこえて

バラス・フレデリック・スキナー·現代

自由意志と個人的尊厳を幻想と退けた徹底的行動工学の主著

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哲学心理

この著作について

行動主義心理学者B・F・スキナーが1971年に公刊した、社会改革の書にして哲学的挑発の書。行動主義の知見を徹底したときに、「自由」「尊厳」といった近代的価値が根本から問い直される様を赤裸々に示した、20世紀論争的古典の一つ。

【内容】

人間の行動はすべて環境の随伴性による強化・弱化の結果であり、「自由意志」も「個人の尊厳」も、外的原因が見えにくい場合にそう感じる錯覚にすぎないと主張する。従ってこれらの幻想に固執することは、環境設計による真の問題解決(犯罪・戦争・環境破壊など)を妨げる。内的な動機ではなく外的な随伴性を変えることで、人類全体の行動をよりよい方向に変えうると説くウォールデン・ツーの思想的総決算。

【影響と意義】

発表直後から猛烈な論争を呼び、ノーム・チョムスキーによる痛烈な批判を引き出した。それゆえに20世紀の「自由・尊厳」概念を鍛える重要な対話相手として哲学史に残り、AI倫理・行動経済学・ナッジ論争などの遠い源流となっている。

【なぜ今読むか】

アルゴリズムによる行動設計が日常を覆う現代、「人間を設計する」ことの倫理を先取りした古典として必読。

さらに深く

【内容のあらまし】

本書は九章からなる。一九六〇年代末のアメリカは、ベトナム戦争、人種差別、環境汚染、人口爆発に揺れていた。スキナーは冒頭で、人類が直面する現実問題を解決するには技術や経済政策だけでなく、人間の行動そのものを変える「行動の科学」が必要だと述べる。ところが、そのために最も使えるはずの行動主義心理学が、なぜ広く受け入れられないのか。彼は答える。「自由」と「尊厳」というふたつの近代的価値が壁になっているのだと。

第二章「自由」は本書の中心問題である。スキナーは、人間の行動はすべて環境からの強化と弱化の積み重ねによって形作られると論じる。ある行動が報酬を伴えば頻度が増し、罰を伴えば頻度が減る。これがオペラント条件づけの基本である。私たちが自由意志を感じるのは、自分の行動を引き起こした環境的随伴性が見えにくいときである。原因が見えなければ、人は「自分が選んだ」と感じる。スキナーにとって自由とは、無原因性の幻覚にすぎない。

第三章から第五章で、彼は伝統的概念の解体を続ける。「尊厳」は、人が困難な状況にあえて取り組み称賛されるときに与えられる評価だが、行動の原因が外部環境から十分に説明されると、称賛の対象は人ではなく環境設計に移る。「責任」「罪」「罰」も同様である。罰は短期的に行動を抑制するが、長期的には不安と回避反応を生むだけで、行動そのものを建設的に変えない。私たちは罰よりも、環境を組み替えて望ましい行動を強化する方を選ぶべきだ。

中盤の章では、価値、文化、文化の進化が論じられる。価値とは、ある集団がその文化を維持するために強化してきた行動の傾向にほかならない。文化は遺伝子と同じように、強化随伴性のレベルで進化していく。スキナーは小説『ウォールデン・ツー』の延長線上に、行動工学に基づいて設計された社会を構想する。教育、労働、子育て、犯罪対策、環境保護のすべてが、罰ではなく強化を中心に組み直される。

終章で著者は、自分が提案しているのは独裁ではなく、誰にとって望ましい結果を生む環境を作るかについての公開された議論であると弁明する。だが「人間を設計する」という言葉が呼び起こした反発はすさまじかった。チョムスキーは長文の書評で激しく批判し、自由と尊厳の側からの反論が二十世紀後半のあいだ繰り返された。アルゴリズムによる行動設計が日常を覆う現代において、本書の論点は形を変えてふたたび議論の的になっている。

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