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パ

『パサージュ論』

ぱさーじゅろん

現代

19世紀パリのアーケード街から近代資本主義を読み解く未完の大著

哲学文化

この著作について

ヴァルター・ベンヤミンが亡命先のパリで1927年頃から1940年の死まで13年にわたって書き継ぎ、未完のまま残した断章群。19世紀パリのパサージュ(ガラス屋根のアーケード街)を通して、近代資本主義社会の原風景を読み解こうとした壮大な試み。

【内容】

ベンヤミンは商品・遊歩者・室内・鉄道・写真・ファッションといった近代を象徴する主題ごとに断章を積み重ね、引用と論述をコラージュのように配置した。パサージュは商品経済と夢幻世界が交差する「19世紀の夢空間」であり、そこに宿る集合的無意識を弁証法的イメージとして取り出すことで、現在を覚醒させるという方法を提示する。マルクス主義と神学、シュルレアリスムと歴史哲学を横断する独自の手法が展開される。

【影響と意義】

本書は戦後アドルノらによって整理・出版され、現代の文化研究・メディア論・都市論・ポストモダン思想に巨大な影響を与えた。ベンヤミンの弁証法的イメージや歴史の概念は、後続世代が繰り返し継承する宝庫となっている。

【なぜ今読むか】

現代のショッピングモールやSNSもまた、パサージュと同型の「夢空間」として読み解ける。日常の商品文化に潜む歴史性と幻想性を見抜くための補助線となる。

どの訳で読むか

日本語で全体が読める訳は、今村仁司・三島憲一ら11人が共訳した岩波書店の一種類だけで、いま版元に在庫があるのは岩波文庫の全5冊。ドイツ語とフランス語の二つの概要だけを別の訳で読み比べたい、あるいはパリをめぐる周辺の論考を1冊で読みたいなら、ちくま学芸文庫の論集がある。

  • 今村仁司・三島憲一ほか訳(共訳11人)岩波書店・岩波文庫、2020年12月〜2021年8月(全5冊)

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    第1冊に二つの概要とA〜Gの束、第2冊にH〜J、第3冊にK〜T、第4冊にU〜a、第5冊にb〜rと初期の草稿「土星の輪あるいは鉄骨建築」、関連書簡を収め、束は原書どおりの順に並ぶ。版元の紹介では、ドイツ語担当6人、フランス語担当5人で訳した。版元のサイトでは全5冊とも在庫ありと表示され、電子書籍もある。同じ訳は2003年から岩波現代文庫でも出た。版元によれば、単行本はテーマ別の編集で、現代文庫版から覚え書および資料を原書どおりの断章番号順に改めた。現代文庫の第1巻は版元で品切れ。

  • 浅井健二郎編訳、久保哲司・土合文夫訳筑摩書房・ちくま学芸文庫「パリ論/ボードレール論集成」、2015年(608頁)

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    『パサージュ論』の全訳ではなく、それを構想する中で書かれた覚書や論考を集めた論集。国立国会図書館の内容細目では、冒頭にドイツ語の概要(久保哲司訳)とフランス語の概要(土合文夫訳)が並び、岩波文庫の訳と読み比べられる。出版社の目次にはほかに、ボードレール論三編と、「土星の環、あるいは、鉄骨建築についていくつかのこと」「『パサージュ論』初期覚書集」などの関連論考が載る。

さらに深く

【内容のあらまし】

1982年に全集の一巻として出た本書の中心は、二つの概要と、膨大な「覚え書および資料」である。後者は大文字のAからZと、小文字のaからrのうち十文字を見出しにした36の束に分けられ、断章ごとに[A1,1]のような番号がつく。初めは50頁ほどの論文になるはずだった仕事が、こうして千頁を超えた。

ドイツ語の概要「パリ、19世紀の首都」は、人名と事物を組にした六つの節からなる。最初の「フーリエあるいはパサージュ」は、パリのパサージュの多くが1822年からの15年ほどのあいだに生まれ、繊維取引の好況と鉄骨建築の始まりがその条件だったと書き起こす。両側に店が並ぶガラス屋根の通路を一つの都市、いや小さな世界と呼ぶ案内書の一節が引かれ、どの時代も次の時代を夢に見るというミシュレの言葉が添えられる。フーリエはこのパサージュに、ファランステールの建築の規範を見た。続く節はダゲールとパノラマ、グランヴィルと万国博覧会、ルイ=フィリップと室内、ボードレールとパリの街路、オスマンとバリケードを扱う。万博は商品という物神への巡礼地と呼ばれる。室内では、住むとは痕跡を残すことだという事実が際立ち、その痕跡をたどる探偵小説が生まれる。遊歩者は大都市にも市民階級にもまだ呑み込まれず、群衆の中に逃げ場を探す。オスマンの工事の真の狙いは、道幅を広げ、兵営から労働者街への最短路を通して、バリケードを二度と築かせないことで、同時代人はそれを「戦略的美化」と呼んだ。この概要は、商品経済が揺らぎはじめると、ブルジョワジーの記念碑が崩れる前から廃墟に見えてくるという一文で閉じる。

節が五つに減った1939年のフランス語の概要は、パリ・コミューンのさなかに獄中のブランキが書いた、天体による永遠を説く書で終わる。自然が使える元素は百ほどで組み合わせは有限だから、宇宙は同じものを果てしなくくり返し、進歩と呼ぶものは各々の地球に閉じ込められてその星とともに消えるという。ベンヤミンはこれを、世紀の幻像の最後の一枚とする。

覚え書の部の最初の断章は、さきの案内書の一節を引き、これをパサージュを描くための「古典的な典拠」と呼ぶ。Kの束は、資本主義は一つの自然現象であり、それとともにヨーロッパに新たな夢の眠りが訪れたと書く。Mの束「遊歩者」には、1839年には亀を連れて散歩するのが粋だったというメモがある。認識論を扱うNの束には、この仕事の方法は文学的モンタージュで、私には言うべきことは何もなくただ見せるだけだ、とある。ここで扱う領域では認識は稲妻のように一瞬しか訪れず、テクストはその後に長く続く雷鳴だとも記される。

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