家
『家』
いえ
島崎藤村《しまざきとうそん》·近代
島崎藤村の長編小説
哲学
この著作について
島崎藤村《しまざきとうそん》が自身と姉の嫁ぎ先をモデルとして、明治後期から大正初年にかけての旧家の崩壊を描いた大河的な長編小説。
【内容】
舞台は木曽の旧本陣筋の橋本家と、その姉妹が嫁いだ小泉家。当主の放蕩と経済的失策、若い世代の都市への流出、頻繁な出産と疫病による死、家督相続をめぐる争い、親族同士の監視と干渉、身体を病む人々と商家の盛衰が、日々の食卓、台所、仏間、蔵の光景とともに克明に描かれていく。大きな事件らしい事件は少なく、家の内部でじわじわと進行する衰亡の気配が、十数年にわたって追跡される。語り手は意図的に抑制され、読者は人物たちのかすかな表情の変化や、廊下を行き交う足音の頻度から、家の重みが人を潰していく過程を感じ取ることになる。
【影響と意義】
日本自然主義文学の代表作であると同時に、明治民法下の「家制度」と近代的個人の葛藤を扱った代表的文献として、社会学・家族社会学の研究でもしばしば参照される。藤村自身にとっては、のちの『夜明け前』に至る歴史小説への橋渡しとなる作品でもある。
【なぜ今読むか】
家業、親族関係、相続、介護、地縁といった重みは、現代でも形を変えて続いている。「家」という装置のなかで、人がどのようにすり減り、また生き延びるのかを丁寧に読み解く材料として、長く生き続ける小説である。