オ
『オメロス』
デレク・ウォルコット·現代
ホメロスを下敷きにカリブ海を歌う現代叙事詩の傑作
哲学文学詩
この著作について
セントルシア出身でノーベル文学賞詩人デレク・ウォルコットが一九九〇年に発表した長編叙事詩である。原題『Omeros』。ホメロスのギリシャ語名「ホメロス」をクレオール風に転じた題で、『イリアス』『オデュッセイア』の主題と構造をカリブ海の漁村に移し替えた現代の英雄叙事詩として知られる。
【内容】
セントルシア島の漁師アキル(アキレウス)と相棒ヘクター、二人が愛するヘレン、英国系の海軍将校プランケット夫妻を中心に、奴隷制と植民地支配の記憶、移民の流浪、自然と文明の交差が、テルツァ・リーマに近い三行連句で歌われる。詩人自身も語り手として登場し、過去のアフリカ・現代のロンドン・トロイア戦争の場面を自在に往還する。ホメロスへの応答でありながら、被植民地の側から西洋古典を書き直す野心的な試みである。
【影響と意義】
一九九〇年のW・H・スミス文学賞を受賞し、ウォルコットの一九九二年ノーベル文学賞授与の決定的根拠となった。ポストコロニアル文学と古典受容研究の双方で、二十世紀後半を代表する叙事詩として参照され続けている。日本語完訳は未刊だが、英文学・比較文学の領域では原典が広く読まれている。
【なぜ今読むか】
古代ギリシアの英雄たちと、植民地化された島の漁師たちが同じ詩の中で生きる。普遍と具体、西洋と非西洋を架橋する想像力は、グローバル化の時代に詩がなお果たしうる役割を示している。