フィロソフィーマップ
ダ

『ダロウェイ夫人』

だろうぇいふじん

ヴァージニア・ウルフ·現代

ロンドンの一日を意識の流れで描いたモダニズム小説

文学

この著作について

イギリスの作家ヴァージニア・ウルフ(1882〜1941)が1925年に公刊したモダニズム小説。1923年6月のロンドンの一日が舞台となる。

【内容】

上流婦人クラリッサ・ダロウェイが夜のパーティーに向けて街に花を買いに行く朝から、賓客たちを迎える深夜までの十数時間が、登場人物たちの「意識の流れ」を交互に重ねる手法で描かれる。クラリッサの過去の恋人ピーター・ウォルシュ、戦争で精神を病んだ青年セプティマス・ウォレン・スミスとその妻ルクレツィア。時計の鐘が街に響くたびに、登場人物たちの記憶と現在が交錯する。セプティマスの自死の報せがパーティーの席に届く瞬間、生と死、戦争の傷、社会の表層の薄さが一挙に立ち上がる。

【影響と意義】

ジョイス『ユリシーズ』と並ぶモダニズム文学の代表作として読み継がれ、リクール『時間と物語』など現代の時間論にも繰り返し引用される。

【なぜ今読むか】

人間の内面が日常のなかでどれほど多層的かを、文学の力で体感できる。

どの訳で読むか

解説と年譜、登場人物のしおりがつき、電子書籍でも読める訳を選ぶなら、ここに挙げた中でいちばん新しい光文社古典新訳文庫の土屋訳が目安になる。別の文庫で読み比べるなら集英社文庫の丹治訳があり、古くからの訳を電子書籍で読むならグーテンベルク21の大澤訳がある。みすず書房の近藤訳は版元で品切となっている(2026年10月時点)。

  • 大澤実訳グーテンベルク21・電子書籍、2001年

    Amazonで探す

    電子書籍で出たのは2001年だが、大沢(大澤)実の訳は1954年に三笠書房の現代世界文学全集の一冊として出ている(国立国会図書館の書誌による)。電子書籍ストアのBOOK☆WALKERでグーテンベルク21の版として扱われている。

  • 富田彬訳角川書店(現KADOKAWA)・角川文庫、2003年(初版は1955年)

    Amazonで探す

    富田訳は1955年に角川文庫で出ており、今の版は2003年に出た(国立国会図書館の書誌による)。紀伊國屋書店のウェブストアでは注文を受け付けていない(2026年10月時点)。

  • 近藤いね子訳みすず書房・ヴァージニア・ウルフ コレクション、1999年

    Amazonで探す

    四六判の単行本。みすず書房からは1976年にも近藤訳の版が出ている(国立国会図書館の書誌による)。版元のサイトでは品切となっている(2026年10月時点)。

  • 丹治愛訳集英社・集英社文庫、2007年

    Amazonで探す

    丹治愛訳は1998年に集英社から単行本で出ており、2007年に集英社文庫版が出た(国立国会図書館の書誌による)。文庫は版元の表記で416ページ。

  • 土屋政雄訳光文社・光文社古典新訳文庫、2010年

    Amazonで探す

    ここに挙げた中でいちばん新しい訳で、版元は「流麗にして明晰な新訳」と紹介している。松本朗(上智大学教授)の解説と、おもな登場人物を記したしおりがつき、国立国会図書館の書誌には年譜ありと記されている。電子書籍もある。

さらに深く

【内容のあらまし】

小説は「Mrs. Dalloway said she would buy the flowers herself.」(ダロウェイ夫人は、花は自分で買ってくると言った)の一文で始まる。女中のルーシーは手一杯で、扉を外しに業者も来るからだ。彼女は娘時代のブアトンでフランス窓を押し開けた朝と、「野菜のあいだで物思いかい」とからかったピーター・ウォルシュの声を思い出す。ビッグ・ベンが鳴り、鉛の輪が空気に溶けたという一句が初めて現れる。ボンド街では、もうクラリッサですらなく、リチャード・ダロウェイ夫人でしかない自分を感じる。

花屋にいると、通りでピストルのような破裂音がする。止まった自動車に要人らしい顔がのぞき、すぐに男の手がブラインドを下ろす。足止めされた人々のなかにセプティマスがいる。続いて飛行機が空に煙で文字を書き、ある人はグラクソ、別の人はクリーモと読む。公園のベンチでは、夫の関心を外へ向けるよう医師ホームズに言われた妻が「見て、見て、セプティマス」と空を指すが、彼には休戦直前に戦死した友人エヴァンズが柵の向こうに見えている。

帰宅したクラリッサは、夫だけがブルートン夫人の昼食に招かれたと知って自室に上がり、ブアトンでサリー・シートンに口づけされたときを生涯最高の瞬間として思い返す。今夜着る緑のドレスを繕っていると、前夜インドから着いたピーターが現れ、ポケットナイフを開いたり閉じたりしながら、インド軍少佐の妻との恋と離婚の相談を打ち明けて、不意に泣き出す。帰る背中に、彼女は「今夜のパーティーを忘れないで」と叫ぶ。ピーターは公園のベンチで眠りこみ、魂の死という言葉とともに目を覚ます。

昼から夕方にかけて、場面が人から人へ移る。医師ブラッドショーは均衡を女神のように崇め、セプティマスを療養所へ送る手はずを整える。リチャードは昼食会で「タイムズ」への投書を手伝った帰り、赤と白のバラの大きな花束を抱えて愛していると言いに帰るが、手を握るだけで言葉にできない。娘エリザベスは家庭教師キルマンとの買い物のあと一人でバスの二階席に乗り、医者にも農場主にもなれると考える。夕方、セプティマスは妻が仕立てる帽子を手回しオルガン弾きの猿の帽子だとからかい、二人は何週間ぶりかで一緒に笑う。そこへホームズが階段を上がってくる。

夜、クラリッサは階段の上に立って客を迎える。ロセター夫人という聞き慣れない名で現れたのはサリー・シートンで、首相も姿を見せる。遅れて着いたブラッドショー夫人が、軍にいた若者が自ら命を絶ったと口にする。パーティーの最中に死がやって来たと感じたクラリッサは、誰もいない小部屋に入っていく。

Amazonで見る