『近代世界システム』
きんだい せかいしすてむ
イマニュエル・ウォーラーステイン·現代
16世紀以降の資本主義世界経済を中核・半周辺・周辺の三層構造で分析し、帝国主義を長期的な世界システムの論理として捉えた大著
この著作について
アメリカの社会学者イマニュエル・ウォーラーステインが、国民国家を分析単位とせず「資本主義的世界経済」を主題に据えて近代史を描き直した全四巻の大著。
【内容】
第一巻では、「長い十六世紀」にヨーロッパを核として成立した世界経済が、中核(コア)、半周辺(セミペリフェリー)、周辺(ペリフェリー)の三層の国際分業構造を持つことが示される。第二巻以降は、十七世紀の危機、産業革命、自由主義帝国、二十世紀の世界システムへと時代が進む。ヘゲモニー国家が、スペイン・オランダ・イギリス・アメリカと交替しつつ、それぞれの時代の世界秩序を規定してきた動態が描かれる。フェルナン・ブローデルの長期波動史とマルクス主義経済史を結び合わせ、「不均等交換」の視点から近代資本主義を総合的に捉える理論が提示される。
【影響と意義】
本書によって「世界システム論」が成立し、ポスト植民地研究、グローバル・ヒストリー、南北問題論、周辺国開発論に決定的な影響を与えた。ピケティ、アミン、アリギ、フランクなど現代の格差論・経済史研究の共通基盤となっている。
【なぜ今読むか】
米中対立、グローバル・サウスの台頭、サプライチェーンの再編などは、国民国家単位の視点だけでは捉えられない。世界を一つのシステムとして長期で読む視点を身につけるのに、本書は現在でも有効な見取り図を与えてくれる。
さらに深く
【内容のあらまし】
第1巻の序章で著者は、アフリカ研究から世界システム論にたどり着いた道筋と、発展段階論を離れる理由を語る。第1章は「世界経済」と「世界帝国」を区別し、封建制の危機をたどって、ヨーロッパを外へ向かわせた動機を貴金属、食糧、燃料に探る。ポルトガルが先陣を切り、中国が内にこもった理由では、ウェーバーのアジア論も引く。第2章は1450年頃から1640年頃の新しい分業を扱い、ハミルトンの物価学説を批判したうえで、奴隷制、換金作物のための強制労働、半周辺の分益小作制と、地域ごとに労働管理の形が違うことを示す。東欧の再版農奴制も新大陸のエンコミエンダも資本主義とされる。続く章は絶対王政と国家機構の強化、スペインの帝国の挫折とアムステルダムへの重心の移動、イギリスのジェントリ論争をたどる。第6章はポーランドをシステムの内部に、ロシアとオスマン帝国とアジアを外部に置き、第7章で理論面を総括する。
第2巻は、十七世紀の危機は実在したのかと問い、この時代を世界経済の収縮局面として捉え直す。ヘゲモニー国家を定義し、工業、海運、アムステルダムの金融市場で優位に立ったオランダを描いたあと、1651年から1689年までの英仏の争いを追う。続く二つの章が周辺と半周辺を扱う。周辺では東欧の再版農奴制が育ち、スペイン領アメリカのアシエンダ、カリブ海の砂糖、チェサピークの煙草を取り上げて、年季契約奉公人から黒人奴隷への移行を描く。半周辺では「没落」とされるスペインに対し、銅と鉄を足場にしたスウェーデンと、軍と官僚制を整えたプロイセンが浮上する。最後の章は、1689年から1763年の英仏の争いである。
第3巻は、産業革命はイギリスに固有だったのか、フランス革命はブルジョワ革命だったのかを問う。第2章は1763年から1815年を扱い、フランス革命を英仏のヘゲモニー争いに敗れた結果として捉えて、イギリスが覇権を握るまでを描く。第3章は、インド、オスマン帝国、ロシア、西アフリカが世界経済に組み込まれる過程をたどる。最終章は南北アメリカの定住植民地の解放で、アメリカ独立からテュパク・アマルの反乱、サン・ドマングの黒人革命、クリオーリョの独立運動までを追う。
原著2011年刊の第4巻は、序章で全巻を振り返ったあと、フランス革命が人民主権を正統化したのに応じて生まれた保守主義、自由主義、急進主義の三つのイデオロギーを論じる。1815年から1875年にかけての自由主義国家の建設と階級闘争、女性や労働者や黒人を市民から締め出す仕組み、社会科学となった自由主義を順に追い、最終章で議論をまとめ直す。