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回想録

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ビスマルク·近代

ビスマルクの政治的回顧録

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哲学

この著作について

鉄血宰相オットー・フォン・ビスマルクが宰相を辞した後、フリードリヒスルーの館で口述と推敲を重ねて残した二巻の回顧録。

【内容】

ユンカーの家に生まれた少年時代、議会活動の始まり、プロイセン国王の信任を得るまでの経緯から話が起こされる。続く章ではデンマーク戦争、普墺戦争、普仏戦争という三つの戦争と、ヴェルサイユ宮殿でのドイツ帝国成立までの外交の舞台裏が克明に描かれる。列強間の均衡を維持するための「再保障条約」など複雑な同盟戦略、議会・皇帝・世論との格闘、社会主義者鎮圧法と社会保険立法を同時に進めた国内政治が、本人の主観を交えて語られる。後半では若い皇帝ヴィルヘルム二世との対立と辞任が、強い感情を伴って記される。

【影響と意義】

近代政治外交の内実を当事者の視点から描いた一次資料として、政治史・外交史研究の基本文献であり続けている。権力政治のリアリズムを言語化した書物として、キッシンジャーをはじめ二十世紀の戦略思想家にも繰り返し参照された。

【なぜ今読むか】

多極化が進み同盟関係が再構築される現代、列強間で均衡を保つための冷徹な計算と人間関係の機微を同時に見渡す回顧録として読む価値は大きい。政治的リアリズムの古典的教科書である。

さらに深く

【内容のあらまし】

本書は宰相辞任後のビスマルクが、フリードリヒスルーの居館で側近に口述しながら推敲を重ねた回顧録である。冒頭、彼は自分の回想を弁明や告発のためではなく、後世のドイツ国民への教えとして書く、と断っている。前半では、ユンカーの家に生まれた少年時代、ゲッティンゲンとベルリンでの学生生活、若き日の議会演説、フランクフルトのドイツ連邦議会への赴任、ペテルブルクとパリでの大使経験が、人間観察を交えて回想される。フリードリヒ・ヴィルヘルム四世やヴィルヘルム一世、ナポレオン三世、ロシア皇帝アレクサンドル二世らとの会談の場面が、しばしば自分の手駒の動かし方への自負とともに描かれる。

中盤の見せ場は、プロイセン首相に就任してからの三度の戦争である。デンマーク戦争ではシュレスヴィヒ=ホルシュタイン問題をオーストリアと共に処理したのち、その火種を巧みに普墺戦争に転化する。ケーニヒグレーツの会戦後、軍部はウィーン進撃を望むが、ビスマルクは将来の同盟関係まで見越してオーストリアに寛大な講和を強い、国王の不満を押し切って合意を成立させる。続く普仏戦争では、エムス電報の編集を通じてフランス側に開戦を選ばせ、セダンでナポレオン三世を捕虜にする。ヴェルサイユ宮殿の鏡の間でドイツ皇帝戴冠式が挙行され、ドイツ統一が成就する場面の記述には、達成感と同時に冷徹さが漂う。

後半では帝国宰相としての対内外政策が振り返られる。三皇同盟、二重同盟、三国同盟、ロシアとの再保障条約と、複雑に重なる同盟網の意図が解説される。ビスマルクの基本構想は、フランスを孤立させたうえで、列強の関心を地中海やバルカン半島に向けさせ、ヨーロッパ中央のドイツに直接の脅威が及ばないように均衡を保つことにある。文化闘争、社会主義者鎮圧法、世界初の社会保険制度といった内政も、同じ均衡感覚から説明される。

終盤、若き皇帝ヴィルヘルム二世との対立と一八九〇年の辞任が、抑えきれない感情とともに語られる。ビスマルクは新皇帝の植民地拡張政策と海軍増強を、自分が築いた均衡を壊す危険な路線と見て警告するが、聞き入れられない。回顧録は、自分が降りたあとのドイツがやがて孤立に向かうのではないかという暗い予感で締めくくられ、二十世紀の悲劇の予言として読めるものとなっている。

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