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明暗

めいあん

夏目漱石·近代

夏目漱石の遺作

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哲学

この著作について

夏目漱石が胃潰瘍で倒れる直前まで書き継ぎ、未完のまま遺された絶筆長編で、日本近代文学の達成の一つの頂。

【内容】

新婚間もない津田由雄と妻お延の生活を中心に、二組ほどの家族関係と、かつて津田が想いを寄せたが他家に嫁いだ清子をめぐる微妙な心理が、行きつ戻りつ描かれる。津田の痔の入院と手術、お延と津田の妹お秀の気まずい対面、義弟や友人との金銭と見栄のやり取りが、会話と内心のモノローグで積み重ねられていく。物語は、津田が清子の療養する温泉宿を訪ねる場面で断ち切られている。漱石が後年説いた「則天去私」の境地と、なお残る利己的自意識との相剋が、繊細な筆致で追い詰められる。

【影響と意義】

和歌や漢詩の世界と、ジェイン・オースティンを思わせる会話中心の近代心理小説とを架橋した作品として、日本語による心理描写の到達点とみなされている。後の志賀直哉《しがなおや》・谷崎潤一郎《たにざきじゅんいちろう》・川端康成《かわばたやすなり》らは、いずれも本書を通過して自身の文体を鍛えた。

【なぜ今読むか】

夫婦や家族の間にわだかまる小さな誤解や虚勢が、長く読み進めるほど奇妙な重みを帯びてくる。日常会話に潜む自意識の仕組みを内側から観察する目を養うための、息の長い訓練になる一冊である。

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