行
『行人』
こうじん
夏目漱石·近代
知識人の孤独と家族の亀裂を描いた漱石後期三部作の一つ
文学
この著作について
夏目漱石が1912年12月から翌13年11月にかけて東京朝日新聞に連載した長編小説。『彼岸過迄』『こゝろ』と合わせて後期三部作を成す、知識人の懐疑と孤独を主題とする中期の代表作である。
【内容】
三部構成。語り手「二郎」の目を通じて、兄「一郎」の内面の危機が徐々に明かされていく。大学教授として知的に恵まれた一郎は、妻「直」の心が自分に届かないという疑念に取り憑かれ、二郎に対して「妻を試してくれ」と常軌を逸した依頼までする。家族の細部と知性の孤独が交錯し、物語はついに「死ぬか、気が狂ふか、宗教に入るか」という絶望的な三つの選択肢のなかで、友人Hの長い手紙によって幕を閉じる。
【影響と意義】
日本近代小説における「知識人の孤独」の主題を最も濃密に描いた作品として、『こゝろ』と並んで漱石研究の中心に置かれてきた。夫婦の内面的断絶と嫉妬の分析は、後続の私小説・心理小説に深い影響を与えた。
【なぜ今読むか】
情報が溢れても、他者の心の内奥にはなお到達できないという感覚は、現代の対人関係論にも直結する。漱石の病と苦悩が滲む、痛切な一冊である。
著者
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