道
『道徳の系譜学』
どうとくのけいふがく
フリードリヒ・ニーチェ·近代
善悪の起源を歴史的に問い直すニーチェの代表作
哲学
この著作について
フリードリヒ・ニーチェが『善悪の彼岸』を補足する意図で著した、三つの論文からなる道徳哲学の代表作。
【内容】
本書は古代地中海世界の貴族的価値観から出発する。「善」とはもともと、高貴で力強く富める者を指す自己肯定的な語であり、「悪」はそれに劣る者を指す軽蔑語であった。第一論文「善と悪・良いと悪い」は、弱者たちのルサンチマン(怨恨)がこの価値序列を反転させ、苦しみを善とし、力の発揮を悪とするキリスト教的・奴隷的道徳を生み出したと論じる。第二論文「負い目・良心の疚しさ、その他」は、債権と債務の関係から罪悪感と良心が形成される過程を、第三論文「禁欲主義的理想は何を意味するか」は、芸術家・哲学者・聖職者の理想がいかに現実回避の装置として機能してきたかを分析する。
【影響と意義】
道徳を自明の真理として受け取らず、その成立条件を歴史的に暴き出す「系譜学」の方法は、フーコーの権力論、ドゥルーズのニーチェ読解、フェミニスト批判、現代の批判理論にまで深く浸透している。進化倫理学、道徳心理学、認知行動療法に至る広い領域で、「罪悪感の起源を問う」視点として働き続けている。
【なぜ今読むか】
社会正義とキャンセル、自己責任と連帯など、今日の道徳的議論には強い感情が絡みつく。本書の冷徹な光は、「私たちの正義感はどこから来たのか」を自分で点検する訓練として、なお強い効き目を持つ。
著者
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