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富嶽百景

ふがくひゃっけい

太宰治·現代

御坂峠での滞在を綴る中期太宰の代表的随想短編

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哲学文学日本文学

この著作について

太宰治が1939年2月号と3月号の雑誌『文体』に発表した随筆風短編。1938年秋から翌春にかけて山梨県御坂峠の天下茶屋に滞在し、井伏鱒二の世話で見合いをして石原美知子と婚約・結婚するに至る一連の体験をもとに書かれた、太宰中期の代表作である。

【内容】

「富士には、月見草がよく似合ふ」という一節で広く知られる本作は、御坂峠から望む富士山を軸にした断章形式で進む。あまりに完成された姿の富士に、語り手は最初なじめずに反発するが、湯治場の老婆、無邪気な遊女たち、見合いに来る娘、宿の主人といった人々との細やかな出会いを重ねるうちに、富士をめぐる感情は次第にほどけていく。自意識過剰だった初期太宰の声は、ここでは穏やかな観察と軽い諧謔に置き換えられ、自然と人間への信頼が淡く立ち上がってくる。

【影響と意義】

走れメロス『女生徒』などとともに、いわゆる「中期太宰」の明朗な作風を代表する一篇とされ、戦後長く高校国語教科書の定番教材として読み継がれてきた。「自殺と退廃の太宰」というイメージとは別の側面を示す重要な作品でもある。

【なぜ今読むか】

人や場所への期待が外れ、それでも少しずつ折り合いがつけられていく感情の揺れが、短い随筆のなかに丁寧に畳み込まれている。日々の暮らしの肌触りを取り戻したいときに開きたい一冊である。

著者

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